「鋼×想=力」特集
現場監督の疲弊を建設業特化型BPOで救う
KMユナイテッド様インタビュー【前編】

2022年5月23日

ご安全に!

ご存知のように、建設業界では深刻な人手不足とともに「2024年問題」に直面しています。当社は2年前から、KMユナイテッド様の「建設アシスト」というサービスを導入し、建設現場の働き方改革と作業の効率化を図ってきました。人材活用サービス「建設アシスト」とはどのようなものなのか。導入により建設現場の働き方はどう変わるのか。KMユナイテッドCEOの竹延幸雄様にお話を伺う前後編の連載。前編では「建設アシスト」誕生のきっかけから、その活用法までを伺いました。

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左から株式会社KMユナイテッド 事業営業統括責任者 大瀧真美様、CEO竹延幸雄様、日鉄エンジより都市インフラセクター 執行役員・建築本部長 岡田芳正、プロジェクト部シニアマネジャー 尾上和彦

introduction

株式会社KMユナイテッド様は、2013年に京都市で創業。親会社である「竹延」グループ(大阪府)で働く塗装職人の後継者問題を解決するため、職人育成会社としてスタート。その後、女性職人育成などが注目を集め、2016 年経済産業大臣表彰「新・ダイバーシティ経営企業 100 選」、2017 年厚生労働大臣表彰「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」最優秀賞を受賞するなど高い評価を受ける。2019年には起業家の頂点を決める"Japan Venture Awards 2019"にて、同社の「建設アシストビジネスモデル」が中小企業庁長官賞受賞。現場監督の書類業務をサポートし生産性を向上させる同社の新サービス「建設アシスト」は現場監督の平均残業時間の67.9%減を達成するなど大きな成果を上げている。

塗装職人を定着させるために人材育成改革を行なった

編集部:今回は、建設業界の人手不足を解消する新たな人材活用サービスを生み出したKMユナイテッド CEO竹延幸雄様、事業営業統括責任者 大瀧真美様にお話を伺っていきます。はじめに、「建設アシスト」が誕生したきっかけについてお聞かせください。

竹延幸雄様(以下、敬称略):当社は、元々は塗装会社である親会社の職人不足問題を解決するために創業した会社です。ご存知のように職人の世界は、昔から正社員がいない、有給休暇もないというとても働きやすいとは言えない職場でした。そのため以前から〝なり手不足〟問題に直面していました。これを解決するには業界全体の働き方改革が必須ということで、職人さんたちを正社員にし、有給休暇や退職金を出せるようにしていったという経緯があります。

同時に生産性を高めるために、先輩の背中を追いかけ仕事を覚えていく昔ながらのスタイルではなく、技能を伝承する仕組みを作り早く一人前になってもらうやり方に変えていったのです。優秀な人材を集めるため、時短でも働けるように柔軟な働き方のできる環境づくりも行いました。

少し前に京都のフォー・シーズンズホテルや太陽の塔の塗り替え工事が行われましたが、手がけたのはほとんどが女性職人たちなのです。この職人育成の成功をきっかけに、次の新規事業として誕生したのが「建設アシスト」というサービスになります。

残業が当たり前、現場監督の疲弊をなんとかしたい

編集部:建設業界の平均残業時間は月51.3時間とされ、月100時間の残業も珍しくないといわれています。いわゆる「建設業の2024年問題(※)」ですね。建設業界は、求人需要はあっても就業者数が減少しておりどこも人手不足の問題を抱えています。背景には、常態化している長時間労働という建設業界が抱える問題があるとされています。

※労働時間の上限が規定され違反した企業に罰則が科せられる。建設業に対しては5年間の猶予が与えられ、2024年4月から施行される。

竹延:おっしゃる通りで、「建設アシスト」の大きなテーマとしては「今後、日本の建設業はどうしたら良くなるだろう」という視点からスタートしています。日本の生産年齢人口は、2050年には約7400万人から約5300万人に減少する見通しで、現在の3分の2まで減ってしまいます。

働く人が大勢いた時代は、コア業務以外の部分を派遣社員に任せるという方法をとることで人手不足を乗り切ることができましたが、もはやその方法は成り立たない時代に突入しています。そこで、世界ではすでに主流となっている「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング※)」を導入することにしました。

※企業活動における業務プロセスの一部について、業務の企画・設計から実施までを一括して専門業者に外部委託すること。

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現場監督の平均残業時間を7割近く削減し離職者も減らす

編集部:現場監督の業務をサポートしてもらうことで、サービスの利用者側には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

竹延:我々の調査で、現場監督の業務の60%弱が書類業務という実態が浮かび上がりました。現場監督は、積算、見積書の入力作成、施工要領書、図面作成・修正など膨大な書類仕事を抱えているために残業が非常に多い職種です。それらの業務を我々が担うことができれば、現場監督は現場に集中することができます。さらに残業時間の多さや休日の少なさを理由に離職していくことを食い止めることもできます。

当社グループ内でも、現場監督の書類業務をサポートできる人材は喫緊の案件でしたので、建設アシストの部署を立ち上げ対応してきました。結果、平均残業時間を7割近く減らすことができました。すでにしっかりとした実績があることも強みです。

編集部:残業時間7割減というのは大きなインパクトがありますね。具体的に現場のどのようなことをアシストしていただけるのでしょうか。

竹延:業務は多岐にわたりますが、これまでの実績では、議事録作成、写真帳作成・整理(配筋検査写真帳作成)、検査前準備(配筋検査前準備)、施工計画書作成(たたき台作成)、図面のチェック(鉄骨図寸法チェック)という5つの業務で約1.8倍の業務効率化を実現できています。

「建設業で働きたかった」スキルある人材を呼び戻す仕組み

大瀧真美様(以下、敬称略):私はKMユナイテッドで、主に建設アシストのコンサルティング業務の統括をしております。補足しますと、我々と厚労省とで行なった調査の結果、建設現場では3年で4割の人材が辞めていくことがわかりました。そして、辞めた理由の多くは「働き方が合わない」ということだったのです。つまり建設業が嫌だとか、向いていないという理由ではなく、出産・育児、介護といったライフイベントをきっかけとして生活と労働時間などの条件が合わなくなることによって人が辞めている実態が明らかになりました。非常にもったいないことが起こっているわけです。

「建設アシスト」はサテライトオフィスに業務を集約し、場所や時間の制約を極力排除し子育て中や介護中の人も働きやすい環境づくりを整えています。私自身が子育て中ということで、専門的なスキルを持っていても条件の合う会社がなかったのです。それが今は、KMユナイテッドに採用され、やりがいを持って働かせていただいています。建築士の免許を持っていたりCAD操作ができるなど能力があるにも関わらず、条件が合わずに建設業界で働くことを辞めざるを得なかった人にも働くチャンスが生まれているのです。

編集部:なるほど。この建設アシストは建設現場の働き方も変え、また御社で働く人たちの働き方も変えるという、非常に循環のいい事業になっているわけですね。

竹延:そうですね。建設アシストは、派遣業とは異なる新しいアプローチであり職種です。例えば、人手不足を派遣スタッフで行おうとすれば、その都度教育が必要になります。また、派遣スタッフが交代するとまた1から教育をし直す必要があり、非常にコストがかります。これは従来より建設業界の大きな悩みどころだったと思います。

その点、我々の事業はサテライトオフィスに複数の人材を集約し、限られた業務を繰り返し行うことで知識・スキル・ノウハウを蓄積していきます。さらにアシスト先企業の枠を超えて守秘義務を履行した上で、メンバー同士のノウハウの可視化を常に行なっています。その情報は、社内はもちろんお客様にもシェアし共有していきます。結果、人材教育のコストを下げられ、またノウハウの蓄積がしっかり行われるというメリットがあります。

大瀧:以前の建設業は現場ありき、現場に行かなければ仕事にならないという考え方があったかと思います。しかし、ウィズコロナの時代になり、リモートでもできる仕事ってあるよね、と考え方が変わってきたことも「建設アシスト」事業化の追い風になりました。必ずしも現場にいる必要はないし、建築学科を出ていなければいけないわけでもない、また男性でなければできない仕事ばかりではないんですね。

竹延:ここ数年で周囲の受け止め方が随分変わりました。「竹延さんが以前から言っていることは、いい話じゃないか」と急に風向きが変わってきまして。当社は時短勤務も可能な環境にすることで、大瀧のような子育て中の女性にもやりがいを持って働いてもらえる環境がすでにできあがっています。実際、募集のハードルを下げたことで、優秀な人材が集まるようになりました。まさに良い循環そのものです。

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日本の建設業の生産性向上に貢献したい

竹延:残業がないとか、時短が可能だとか、週休2日ということを「働き方改革」と捉えている方が、まだまだ多いように思います。ですがそれは前段階であって、最も重要なことは仕事を集中して行い、生産性を上げていくということです。

現場監督の残業が減るということも大事ですが、建設アシストをご活用いただくことで、現場監督は空いた時間で現場を見回ったり、工法を見直して改善したりといった本来の仕事に集中できるようになります。結果として、それが生産性向上につながっていくということが、重要だと考えています。

大瀧:一方、サテライトオフィスで働く我々は、さまざまなゼネコンさんの仕事を経験していきます。知識の蓄積とシェアリングが行われ経験を積むことで、ここでも生産性を上げていくことができます。通常の派遣では3人派遣すれば3人分の業務のままですが、3人でこなしていた仕事を2人でこなせるようになるイメージです。各現場の書類仕事を当社の経験豊富な人材が請け負うことで1人分の余裕を生み出す。そうやって生産性を上げていきます。

竹延:建設アシストはフラットな組織で、役員以外は部長職も課長職もありません。メンバー全員が出世思考ではなく、キャリア志向でやっていこうじゃないかと。そういう新しい職域を生み出そうとしています。生産性を高めた部分は新しい仕事をいただきながら、本人の給料も上げていく。やりがいと給与、スキルアップを一緒に上げていくということが重要です。これができた上でデジタル化を行えば、労働人口が少ない国でも高い生産性を維持できる。日本にあった建設業界の働き方や人材活用モデルが見えてくるのではないかと考えています。

後編『残業が減る代わりにやりがいが増えていく「建設アシスト」導入プロジェクト』に続きます。

株式会社KMユナイテッド
https://www.paintnavi.co.jp/kmunited/
京都府京都市左京区下鴨宮河町7

●建設アシストについて
https://www.coassist.jp

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