「鋼×想=力」特集
現場の仕事はどう変わる? DX推進の取り組み【前編】

2022年9月29日

ご安全に!

ビジネスの世界で導入が加速しているDX(デジタルトランスフォーメーション)。当社も建設業界が抱える人材不足の解消や安全性向上、業務効率化などの課題を解決するため、現場でのDXの取り組みを進めています。

そこで今回は当社の建築DXツールの活用状況やその成果・今後の展望などを、現場の声を交えながら前後編にわたりお伝えしていきます。

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座談会メンバー紹介

都市インフラセクター 建築本部 プロジェクト部 プロジェクト室 マネジャー/岩田篤資、建築本部 プロジェクト部 建築工事室 マネジャー/水野公義、建築本部 プロジェクト部 建築工事室/鈴木朝貴

コロナ禍のなか、新しい働き方への移行で注目される「DX」

編集部:産業界全体で人材不足が課題となる中、当社では働き方改革や業務効率化の一環として3年ほど前から建築DXを本格的に導入していますが、具体的にどのようなものを建築DXツールというのでしょうか。

岩田 篤資(プロジェクト室 マネジャー):DXとは直訳すると「デジタルによる変容」といった意味になります。データやデジタル技術を用いることで、生活やビジネスを変容・変革させることを指します。

コロナ禍でテレワークの導入をはじめIT化が一気に進みましたよね。ただ、DXとは単にIT化することではありません。企業の場合には製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争に勝てるようにすることまでがDXに含まれます(経産省のガイドラインより)。

編集部:建築DXというと、BIM/CIM(計画、調査、設計段階から3Dモデルを導入すること)が真っ先に浮かびます。また、ICT技術としてタブレット端末の導入やクラウドでの情報共有、ドローン、ロボットによる自動化。それに5G、VR(仮想現実)、ドローンやAR(拡張現実)など、デジタル技術とひとことで言ってもたくさんあります。

水野 公義(建築工事室 マネジャー):そうですね。現場はモノづくりの最前線です。IoT化が難しいと思われがちですが、「人に情報を伝える」事の効率化の面ではDXはとても重要な役割を果たします。また、ロボティクス技術の発達は職人の熟達技術の継承・平準化につながります。いずれも人手不足の解決には必須となるはずです。

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(建築本部 プロジェクト部 建築工事室 マネジャー/水野公義)

入場者管理から品質管理、検査まで、幅広い業務にDX導入を推進

編集部:当社ですでに導入しているツールについてご紹介いただけますか。

岩田:仮設事務所で導入が進んでいるものとしてはまず非接触型体温計の設置と入場者管理の自動化、ロボット(ロボホン)の代読による新規入場者教育などが挙げられます。業務効率化と新型コロナ対策の両方を兼ねています。

編集部:現場入場のプロセスを可能な限り自動化できれば、施工管理者の負担軽減につながりますね。

岩田:そうですね。現場社員の日常業務では野帳をデジタル化した「eYACHO」というアプリが活躍しています。野帳への記録は支給されたiPadやパソコンから行います。

eYACHOを使うと以前は事務所に戻ってやっていた書類作成作業がどこにいても可能になり、品質記録、報告書や資料も現場で完結します。写真をその場で撮ることができますし、修正も簡単で非常に快適です。情報をリアルタイムに共有できる点も非常に効率が良い為、現場打合せボードとして活用を試みました。

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iPadから図面へ直接書き込みが可能

編集部:iPadやスマホがあれば、もうデジタルカメラも持ち歩く必要がありませんね。

岩田:はい。品質管理業務では「配筋マスタ」というアプリも非常に使いやすいです。iPad上で鉄筋工事の際の構造図を読み込み、伏図と断面図を見ながら配筋検査の指摘や記録を行うことができます。撮影や写真の整理までできます。この点を応用し、鉄骨継手写真の整理にも活用している現場もあります。

一方「LAXSY」は仕上げ検査で使うソフトウェアですが、図面にピンをさして不具合を示し、具体的な不具合の写真や不具合に対する是正指示書作成・確認完了書類までを共有できるのが特長です。

そのほかスマホで利用状況を可視化できる機材管理ソフト、QRコードを使った日常点検、工事予定などを画面に表示するデジタルサイネージといったものもDXに含まれますね。

こうした迅速な情報共有にはクラウドが欠かせません。クラウドにより欲しい情報がいつどこにいてもすぐに手に入る環境ができると、情報共有や伝達・確認といった業務のスピードは格段に上昇します。

カメラでつなぐと、現場往復が格段に減る

編集部:遠隔監視カメラはどのような使い方がありますか?

岩田:遠隔監視カメラはどこにいても現場の状況をリアルタイムで確認できるというもの。本社から出向かなくても現場の様子が分かるというメリットがありますし、現場社員も事務所にいながら場内の状況を確認できます。夜間は盗難防止用のカメラとして働いてくれます。撮影されたデータを後から確認することも可能です。何かトラブルがあったときにその原因をさかのぼって確認できるというわけです。

竣工間近の状況を360度カメラで撮影し映像化する「360度ツアー」は、お客様への進捗状況説明や内覧用に活用していて、コロナ渦で現場に赴き辛い客先に非常に喜ばれています。この360度カメラの広角無限遠を生かして配筋写真記録にも活用をしました。

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360度カメラで覗きにくい箇所や高所の隠蔽部の確認が可能。

水野:最近のカメラは通信機能を搭載しています。iPadやモバイルルーターを経由してインターネットに接続すると、現場と事務所がリアルタイムでつながります。例えば若手や新人に人間にカメラを持たせて巡回してもらい、その情報を事務所にいる上長と共有する。その場で現場指示ができ何度も現場を往復する手間が省けます。

編集部:DXツールは多岐に渡りますがどれも便利ですね。建築現場では多くの協力会社さんと連携して工事を進めていきますが、この観点でDXをどのように活用されていますでしょうか。

岩田:現場の全体スケジュール管理に役立つのが「日報web」というものです。協力会社さんにその日の作業予定、作業員の人数と出入りを各自のスマホから入力してもらい、クラウドで一元化できます。昔は紙やホワイトボードを用意して人の手で記載していたものが、すべてデジタルデータになり―情報共有されています。

編集部:日報Webについて、現場ではどのようなメリットを感じていますでしょうか。

水野: 従来の方法では朝礼・昼礼・夕礼の際、以前なら職長さんたちが順番に並んでホワイトボードに必要な情報を書き込み、それを元に作業スケジュールや連絡事項の確認をしていました。それが全て各自のスマホから入力でき、web上で確認できます。

時と場所を選ばず入力ができるので非常に効率がいいですね。昼礼中にスケジュール修正をすることもできます。搬入や重機の利用が被ってしまった場合の調整もスムーズです。タブを変えることで先々の予定を見ながらの打ち合わせも可能です。

「DandAll」はゲート別搬入予定や揚重機の予約の共有ができるソフトです。ゲートにいるガードマンもスマホがあれば、どの業者さんからいつ車が入ってくるかある程度把握できます。現場でスケジュール表を確認し、空いている時間に休憩に入るといったことにも活用されています。

岩田:毎日の作業調整会議ではBIGPADや屋外大型ディスプレイモニタが活躍しています。先ほどの配置図を投影し、朝礼実施しています。

水野:BIGPADは大画面のiPadのようなものですね。従来なら紙の資料や図面を広げて説明していた会議や打ち合わせですが、拡大縮小・準備以外の資料の展開などがスムーズで視覚的にもわかりやすい。動画なども流せますので、来客向けの説明にもBIGPADを使うことが増えましたね。

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BIGPADを使えば大画面で図面の確認や説明ができる。

水野:来客対応では無線受信機を内蔵したヘルメット「メットフォン」というツールも活躍しています。現場視察の際、騒音で説明が聞こえないということがあると思いますが、それを解消し音声を聞こえやすくする便利アイテムです。

現場作業員とのやりとりにはビジネスチャットの「direct」を使っています。ひと言でいうとグループLINEのようなものです。文字のやりとりだけでなく、写真や図面などのファイル、ボイスメッセージを使って現場状況を簡単に共有できるコミュニケーションツールです。

現場でよくある困りごとやトラブル、例えば「駐車スペース以外に車が止まっている」「破損箇所を見つけた」といった報告があった場合、写真を撮って共有し現場に行かなくてもチャットでやりとりしながら処理するといったことが可能です。

もちろん現場に行かなくてはいけない場面もありますが、そうしたケースは格段に減ります。誰かを待つという状況が随分減ったと思います。

編集:口頭でのやり取りでは食い違いが生じやすいので、絵や写真でやり取りできて全部記録に残るのはいいですね。こうして一連のツールや活用法をうかがいますとデータを示していただくまでもなく、情報漏れが少ない、情報共有が楽、施工管理者の残業時間を減らせる、という三拍子揃った取り組みになっていますね。

水野:言った・言わないのトラブルが減りますし、とにかくスピーディーに対応できるので現場は非常に助かりますね。当現場で取り扱っているDXは概ね以上のようなものになります。

編集部:こうしたDXツールは当社のすべての現場に浸透しているのでしょうか。

岩田:eYACHOやLAXSY、iPADは、多くの現場で導入されています。その他のツールはWi-Fi環境なども関わってきますので、現場所長の判断で現場ごとに必要なツールを組み合わせて運営している状況ですね。

試験的に導入しているアイテムも含め、今は当社ビジネスにどんなDXが最適かを模索している段階とも言えます。デジタル技術は変化のスピードが非常に速く、こまめな情報収集が欠かせません。導入に際しては柔軟に対応していくことも重要だと感じています。

編集部:ありがとうございます。半年前、DXを導入した現場記事を本メルマガで掲載しましたが、わずか1年ほどの間にツールの数自体もかなり増えているように感じました。DXと一言でいっても活用可能なデジタル技術は多岐に渡り、変化のスピードがとても早い分野だということがよくわかりました。

後編では建築現場でのより具体的なDX活用事例について、建築工事室 マネジャー水野公義さんと鈴木朝貴さんに詳しく伺っていきます。

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