「鋼×想=力」特集
セクターの垣根を超え取り組んだ「75MWバイオマス発電所」設計・施工プロジェクト

2020年12月4日

ご安全に!

今回は、苅田バイオマスエナジー株式会社(福岡県苅田町)より受注した「苅田バイオマス発電所建設工事」の事例を紹介します。

同事業は、レノバ(東京都千代田区)や住友林業(東京都千代田区)、九電みらいエナジー(福岡県福岡市)など5社が出資するバイオマス発電事業会社が計画したもので、100%木質バイオマスを燃料とした出力規模約75MWの発電事業です。同種の発電所としては、日本国内でも最大クラスの発電所となります。

当社としては、建築・鋼構造事業部(現:都市インフラセクター、以下都市インフラS)とエネルギーソリューション事業部(現:環境・エネルギーセクター、以下環境・エネS)が共同受注するという初めての試み。部門連携・協同によって現場にどのような相乗効果が生まれたのか。プロジェクトのメンバーが振り返りました。

introduction

バイオマス発電とは、生物資源を使った発電方法のこと。再生可能エネルギーの中でも、資源さえあれば安定して発電が行え、火力発電に比べるとCO2を削減しやすいことや、エネルギー源の多様化やリスクの分散が可能という点などから、注目を集めています。

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左から、澤田圭佑(意匠)都市インフラセクター 建築本部 設計技術部 建築設計室、高良一馬(現場所長)九州支社 建築・設計工事室 シニアマネジャー、平井理基(意匠設計)都市インフラセクター 建築本部 設計技術部 建築設計室シニアマネジャー、葛生貴博(構造)都市インフラセクター 建築本部 設計技術部 構造設計室 シニアマネジャー、眞鍋光弘(営業)都市インフラセクター 営業本部 建築営業部 建築営業室 室長

巨大な壁、タンク、木質バイオ発電では日本最大級

編集部:まず事業の概要、特徴について教えてください。

高良一馬(現場所長):本工事は、循環流動層(CFB)ボイラを採用した再熱式の高効率な木質バイオマス専焼発電所の建設工事になります。受注形態は、住友重機械工業との共同事業体(乙型JV)。日鉄エンジニアリングは、都市インフラSで土木建築を、環境・エネSで燃料貯蔵設備やマテハンを担当しています。

現場は、北九州空港に近い埋立地で、港がありバイオマス燃料を調達しやすい便利な立地となっています。着工は2018年11月、2021年6月に営業運転開始を計画しています。

編集部:プラント建設は、巨大な建造物が壮観で圧倒されますね。発電形態は木質系バイオマス燃料ということですね。

澤田圭佑(意匠担当):はい。燃料は、北米産の木質ペレットとインドネシア産のパームヤシ殻、九州北部の間伐材や林地未利用木材(木質チップ)の3種類となっています。木質ペレットは水に弱いので、雨風の影響が少ない巨大なタンクの中に入れて保管します。その奥にPKSのヤードがあって、高さ12メートル・幅121メートル・奥行20メートル規模の擁壁があります。木質チップは屋根付きの建屋で保管します。燃料は各格納庫からベルトコンベアーで運ばれますが、木材の粉塵が散乱すると摩擦により火災の原因にもなるため、特殊なコンベアを採用しています。

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木質ペレットを格納する超巨大タンク。全部で3基ある。

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PKSを保管しておくヤード。巨大な壁が立ちふさがり、圧巻。

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コンベヤ(環境・エネS所掌)とタービン(住友重機械工業殿所掌)

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燃料を海側から運び、木質燃料を各格納庫へ。燃料を水平の搬送機とベルトコンベアーで搬送し、ボイラーで混合・加熱。その後、加熱した蒸気をタービン建屋へ送り、発電、売電という流れになる。左手前が管理棟(事務所棟)。建築部門では、杭、基礎工事、PKSヤード、WC倉庫、タービン建屋、管理棟を担当。

基礎、法律、スケール感、仕事のやり方も大きく違うプラント建設

編集:これまで当社が手がけてきた溶融炉の建築などと比べて、大きく違う点はどこになりますか?

葛生貴博(構造設計):プラント建設工事ということで棟数が多く、巨大なタンクだけでも3つと日本最大級の規模。杭打ちは800本にもなりました。通常は200本くらいの案件を担当することが多いので、これだけのスケールのものは構造設計としても初めてのチャレンジでした。納期や予算が限られ、より正確な設計が求められる中で、1〜2年かけて設計するような規模のものを、主要な部分は2ヵ月でやり遂げた点は胸を張れますね。

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平井理基(意匠設計):通常の建物とは、法律も大きく違います。国としては、発電はインフラという考え方なので、発電所の場合、建築基準法よりも電気事業法が上位にくるのです。通常なら、確認申請が通ってから工事に着手するのですが、発電所ということで確認に関わらないところは工事にかかっていいという約束を取り付け、契約から5ヵ月で杭工事に着手できたのは大きかったと思います。結果的に納期を1ヵ月ほど短縮でき、すでに消防検査、建築完了検査に進んでいます。

編集:なるほど、法律や役所との交渉も含めてプラントは特殊なのですね。

高良:ええ。法律面でもそうですが、建築とエネルギー部隊が組んだのも初めての試み。エンジニアリング企業としての強みが出せたと思いますが、最初は調整が大変でしたね。

編集:調整といいますと?

平井:部門ごとに、建物に対する考え方や、仕事のやり方が全く違うということですよね。発電所は産業施設ですから、機械の性能や生産システムが成り立つことが重要で、「建物は箱物でいいじゃないか」という考えに陥りがちです。ですが、プラントと建築が一緒に組むからには、我々はエンジニアリング会社として胸を張れる他社ではできない作品を作りたい。また、お客様の施設に対する思いへの気遣いや他にはないその施設特有の付加価値を提案するよう心掛けていきたい。この仕事は単なるプラント機能を満たした箱物でいいじゃないか、いや建築視点からお客様に提供できるものはたくさんある、そうした価値観の違いから、最初は社内でも互いにぶつかることも多かったんです。

高良:我々は、現場で業者さんをまとめながら、いかにお客様のニーズに対応していくかということに非常に気を配ります。自分たちで全体をマネジメントしていくスタイルです。

一方、エネソル部隊では、プラント建設を担当し、性能をきちんと出すことに注力する。あとは外部の業者に任せ、役所関連のやりとりはお客様が進めていくというスタイルが一般的。責任の所在がはっきりしていて、他部門には立ち入らないのです。だから、「なぜ、そこまで世話を焼くのか。当社が責任を持つのか?」と。僕らがやることに対して、余計なこと・無駄なことに感じていたようですね。

平井:今回は社として「セクターの壁を壊そう」という、共通ミッションがありました。建物は見た目も重要だと思っていますし、稼働後の安全や生産性、メンテナンスまで考えて物づくりをしてきました。そこは譲れないので、議論を重ねました。定例会を行なって、ぶつかり合いながらも、一つ一つ課題をクリアにしてきたという感じですね。

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建築部門の強みは、お客様の側に立ってカスタマイズできるエンジ力

編集:具体的には、どのような工夫、苦労がありましたか?

高良:発電所の建屋は配管が多くなるので、設計、設備一つとっても火災予防、事故防止など、安全に配慮していくということ。そして使い勝手や無駄なスペースを有効活用するといったこと。お客様に丁寧に提案し、現場同士で取り合いなども調整しながら、細かく修正していくというプロセスを、これまで通りやっていきました。

葛生:プラント側が通したい配管を優先するためには、雨どいの抜けを検討したり、柱の鋼材をH鋼ではなくコラムにすることでブレースを減らしたりといった工夫ですね。発電効率や生産性を上げるためには、空調もとても重要です。換気口をRC壁のどの位置に設置するかということ等にも実は気を配っているんですよね。

中垣辰哉(設備):ビル建築などに比べて設備部分での自由度は少ないですが、その分、工夫のしがいはあったと思います。設備で言えば、一般的に照明は天井にありますが、発電所はプラント配管、ケーブルラックが天井埋め尽くすぐらい這わされていて、天井に照明を設置しても、それらの影響で床面は影になり暗くなります。そこで、施主に柱付け・壁付けにしましょうという提案をしました。現場の声も聞きながら、最良の解決策を目指して仕事を完了させたという点で、満足しています。

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平井:プラント設計は、建築設計の5倍ぐらいの検討事項があるので、機能ごとの担当者に図面や資料だけ渡し検討依頼し集めるだけでは、結果として無駄も多くなる場合があります。ですから、建築技術者の得意なところである「まとめて、単純にする」ということは、実はプロジェクトとしては非常に重要なんですね。同じ発電機を使っていても、建物の見た目は全く違うものになります。どこにこだわるか、手を入れるかで、工期も費用も、建物の使い勝手も、性能も、見た目もブラッシュアップできるんですよね。

僕らは、自分たちが納得するまで勉強をして、お客さんにぶつけて説得して作りこむのが本来の技術者だと思っているんです。だから「余計なことでもやってみましょうと」、口を出させていただく。最初は嫌がられても、良くなるとわかっているから言えるんです。

高良:今回は、同じエンジ同士だから言い合えた、という部分もありますね。事務所も共同にして風通しをよくしました。若手は、部門の垣根なく自由なディスカッションができるようで、世代の違いだなあと感心しました(笑)。

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タービン建屋。プラントとの取り合いを考えながらの施工を行った。

編集:管理棟も、プレハブではなく、木を使った建物で配慮が感じられました。

澤田:ありがとうございます。私は、全体のデザインコンセプトを担当しました。タービン建屋をはじめ建築物は、周りのプラントのシルバーに合わせてモノトーン調で色彩計画を立て、管理棟は、バイオマス系木質燃料を使った発電所ということで、木を使った内観に。エントランスの壁面には実際の木材を使用し、各部屋の室名札(ピクトサイン)には、お客様のコーポレートカラーを取り入れました。実際に仕上がってみると、温かみがあるデザインに仕上がったと思います。来客された方が、「あれ?これまでの発電所のイメージとは違うな」と、気づいてくれたらうれしいですね。

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木を使ったあたたかみのある管理棟ロビーの内装。

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編集部:なるほど、プラント建設に建築部隊が加わることで、きめ細やかな配慮を随所に施すことができたということですね。

平井:この2年間には、いろいろなことがありました。建築屋としては、パースを自前で作るのは当たり前のことなのですが。パース1つ作るにも、エネソル部隊からは「必要なの?」と言われ、そこからすり合わせなければなりませんでしたからね。この1枚に相当なみんなの苦労が詰まっているのに(笑)。結果的にお客様も、パースを非常に気に入ってくださって、WEBページにも掲載していただいています。

中垣:設備についても、僕らは、建物の換気1つ説明するにも、シミュレーションを重ね、ビジュアル的に分かりやすい図をお客さんに見せたりするんですよね。例えば、タービン建屋内はタービンを回すために様々な設備から熱が発生するため、建屋内に熱がこもります。その熱を外に出すために換気をするのですが、機械換気するにも電気を使用します。発電した電気を売電する施設が、発電するのに施設で大きな電気を使っていたら元も子もありません。そこで、余分な電気を使わない省エネとなる換気方式として"自然換気"を提案しました。 やるからには、きちんとした裏付けを取ってから取り掛かる。それが、僕らの常識であり当たり前。やりがいでもあるんですよね。

互いの文化や違いを理解して1つのチームになれた

眞鍋光弘(営業):今回は、マネジメントの文化と、機械の性能を優先する文化を融合して、エンジトータルでブラッシュアップしていったと。他社とやるとなると、気を使って言い合えないこともあるでしょうが、同じ会社という強みは発揮できたかなと。結果、安全度、施工性能が上がった、費用面でもメリットが出たということは、お客様からも高く評価していただいています。当社としては、他に2つの案件でプラント建設を進めています。苅田の事例は、モデルケースとして次に繋がっていくと思います。

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編集:お客様からの評価に繋がった、いちばんの理由はどんなところでしょう?

高良:やはり工事前から一緒に役所を回ったり、お客様の身になって動いてきた点ではないでしょうか。また、2年前に事務所を構え、他部門連携で一致団結してやってきました。2年間無災害で、工期も縮めることができたことは、100点満点といっていいと思います。

編集:エンジ企業としての強みも出せ、建築部門の存在意義も十分示せたということですね。最後に、今後の展望についてお聞かせください。

高良:事業部の壁・部門の垣根をなくして、プラントがわかる建築技術者を育て、建築技術がわかるプラント技術者を育てるという目標に向かって、1つ実績を積めたことは大きいですね。次の案件では、さらに精鋭ぞろいのチームに成長し、仕事がやりやすくなると思います。

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平井:技術者として建物は作品でもあり、どんな案件でも精一杯こだわってものづくりをしたいという思いがあります。だから今回の案件でも「やるなら、日本一の発電所を作ろうよ」と、何度も訴えました。最終的には、エネソル部隊のメンバーと同じ飯を食った仲間になれた。いがみ合うのではなく、お互いの文化や強みを理解して、最大限に活用していくことが重要です。本音を言い合えたことは、いい経験になりました。若手の皆さんにも引き継いでいってもらいたいですね。

葛生:構造設計としては、ローディングデータの読み込みの重要性を後輩に訴えていきたいですね。情報量が膨大なので、抜けはどうしても出てしまうのですが、今回はみんなが力を合わせて漏れがないよう進めたおかげでミスを最小限に抑えられた。これは社内でチームを組んだからこそできたことですね。社内の皆さんには、ぜひ現地に足を運んでほしい。この建造物を自分の目で見て、何か感じ取ってくれたらうれしいですね。

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案件概要 【苅田バイオマス発電所】

事業主体  :苅田バイオマスエナジー(※)

所在地   :福岡県京都郡苅田町鳥越町13番5

事業用地  :新松山臨界工業団地内 4.8ha

設計・施工 :日鉄エンジニアリング(株)

工事期間工期:(契約工期)2018年6月~2021年6月

       (工事期間)2018年11月〜2021年2月

       (試運転) 2021年1月~2021年6月

【発電設備の概要】

ボイラ形式 :循環流動層(CFB)ボイラ(再熱式)

発電端出力 :約75,000kW

年間発電量 :約5億kWh/年(一般家庭約168,000世帯の年間使用電力量に相当)

発電方式  :蒸気タービン駆動

売電先   :九州電力向けのFIT売電

運転開始予定:2021年6月

※苅田バイオマスエナジー株式会社は、株式会社レノバ(代表取締役社長:木南 陽介、出資比率43.1%)、住友林業株式会社(代表取締役 執行役員社長:市川 晃、同41.5%)、ヴェオリア・ジャパン株式会社(代表取締役社長:野田 由美子、同10%)、九電みらいエナジー株式会社(代表取締役社長:穐山 泰冶、同5%)、三原グループ株式会社(代表取締役社長:三原 茂、同0.4%)が出資する特別目的会社です。

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