「鋼×想=力」特集
働く意欲がわいてくる未来工場に!
アイジーエヴァース様 新工場+新社屋建設プロジェクト

2023年6月5日

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ご安全に!

今回は、自動車部品の金型設計製作・試作開発部品製作を主業とされるアイジーエヴァース株式会社様よりご発注いただいた「依佐美地区本社工場計画」(愛知県刈谷市)の事例を紹介します。本施設は±1~3μm精度の超精密金型を製作するため厳重な温度管理が求められる工場と、従業員の皆様が自然と働く意欲がわくような本社事務所を併せ持つ建物です。約7ヵ月という短工期で、建設計画を円滑に進められた背景にどのような工夫があったのか、完成建物の評価はどうだったか、などについてプロジェクトメンバーが振り返りました。

※インタビューは引き渡し直前の4月に行われました。

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左から、中部支社 建築・鋼構造営業室 川崎将臣、建築本部 プロジェクト部 建築工事室 シニアマネジャー兼現場所長 藤田隆博、同プロジェクト室 シニアマネジャー 池田達也(プロジェクトマネジャー、以下PM)

厳しい温度条件に内装工事の多さが特徴

編集部:はじめに建物の概要や現場の状況を教えていただけますか?

藤田(所長):本案件は、自動車部品の金型設計製作・試作開発部品製作を主業とされる「アイジーエヴァース株式会社」様の新本社工場計画になります。

最大の特徴は厳重に温度管理される恒温室を有する全館空調の工場であること、さらに本社機能として、社長室、役員室、多目的ホールなどを有し、一般の工場と比較して内装工事が非常に多いという点が特徴的です。

また、この土地は矢作川沿岸水質保全対策協議会の指定区域となっており、工事中の排水・浄化槽の仕様などの排出基準が厳しく設定されています。通常の現場に比べると、様々な制限がある現場ではありましたね。

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多目的ホール

編集部:受注までにはどのような経緯があったのでしょうか。

川崎(営業):アイジーエヴァース様からは過去に大津崎工場をご用命頂いており、設計・施工をはじめとした当社の対応力や建物の品質を高く評価していただき、本件も継続してお引き合いを頂いたという経緯になります。

建設用地は新しく開発された工業団地で、公募が開始された2019年当初から当社にご相談を頂き、設計に約2年半、工事期間を含めるとトータルで約3年半もの間、お客様とマンツーマンで作り上げてきたプロジェクトになります。

本施設への思い入れを聞き取り1つ1つ応えていった

編集部:約2年半をかけた設計期間には、営業や設計担当者が刈谷市にあるお客様の前本社工場に毎月通い、計画を一緒に詰めていったそうですね。社長以下、皆様の本施設に対する思い入れは並々ならぬものがあったそうですが、提案時に特に意識したことはどのようなことでしたか。

川崎(営業):社長ご自身が「未来工場を実現したい。そのためにはこうしたい。」という強い想いをお持ちでしたので、その想いに親身になって寄り添い、当社にお寄せいただいたご期待以上のレスポンスをどれだけお返しできるかが重要なポイントだと感じていました。

お客様がお持ちのイメージを共有し、それを具体化する提案を提示し、またその提案に対してお客様にイメージをより細かく出していただくというプロセスを繰り返していき、計画が洗練されていったように思います。設計者も社長の想いをよく噛み砕き、汲み取ったうえで自身のこだわりポイントを提示しつつ、うまく計画に落とし込んでいってくれました。定例会議は毎回時間を忘れるほど白熱し、気がついたら日が暮れていたこともありましたね。

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中部支社 建築・鋼構造営業室 川崎将臣

編集部:施設へのこだわりという点について、具体的な事例があれば教えていただけますか?

川崎(営業):敷地内すべてにこだわりが詰まっていますが、個人的に印象に残っているのは工場の床です。良い製品は良い環境から、との想いから、品質、質感、色、強度、そしてメンテナンス性も重要視されていました。様々な色・仕上げ素材・工法の床材サンプルを取り寄せ確認いただいたことに加え、実際にお客様の製品を落下させ床表面の傷のつき方を一つずつテストし、妥協のないものをご採用頂きました。また、他の諸室と比べると優先度が下がりがちなトイレについても大変こだわっておられました。社員全員は勿論、そして訪問されるお客様にも気持ち良くご使用頂けるよう細部までおもてなしをしたいとの想いから、建設用地近くにある「刈谷ハイウェイオアシス」というサービスエリア(https://kariya-oasis.com/deluxe/)を参考とするようリクエストをいただき、実際に現地を見学して計画に落とし込むといったことも行いました。

池田(PM):やはり製品の品質を売りにしている企業様だからこそ、お付き合いのあるお客様が工場を訪問された時に、対外的にもアピールできるような工場を作りたいという想いがおありになったのだともいますね。

川崎(営業):そうですね。その想いに一つひとつ丁寧に応え、お客様にもご納得いただきながら進めることが出来たのではと思っています。

編集部:確かに多目的ホールも、トイレも非常にゆったりとしたつくりで、使う人の快適さを重視されているのが伝わってきますね。

池田(PM):そうなんです。今回の建設用地は整形でないことに加え企業緑地による制約がある一方で、建屋や外構、駐車場といった配置計画、さらに建屋内の諸室レイアウトもこだわっていくとそれぞれに必要な面積が広がるため、そのバランスを取るところは設計者もかなり頭を悩ませた部分だと思います。

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工場内観

社長様には、従前の工場のイメージを払拭し、未来工場を作りたいとの将来ビジョンがあり、今後増加する社員のためにとか、お客様を呼んでセミナー開催をするスペースもほしいなど、色々なアイディアをお持ちでした。我々が「もう少しコンパクトにしましょうか」というご提案をすると、「いやここは譲れないんだ」といったやり取りは何度もありました。

お客様がどういう意図でこの施設を作りたいのか。それを設計も営業も工事も、全員が理解しながら進める必要がありました。とはいえ、際限なく費用をかけることはできませんから、我々がブレーキをかける場面も必要でした。そうやって出来上がったのがこの建物なんですね。

「働く意欲がわく本社工場に」という想いを様々な工夫で形に/部屋ごとに違う内装は、従業員参加型で決めていった

川崎(営業):トップダウンで全部決めたという建物にはしたくない。「従業員参加型」というのも社長様のこだわりでしたよね。従業員の皆様が「ここで働いてよかった、がんばろう!」という意欲が自然とわいてくるような建物にしたいという想いを強く持たれていました。ページ数の多いかなり厚手のカタログを何冊も自社に持ち帰られ、従業員の皆様の意見を取り入れた結果、内装のコンセプトに部屋ごとに違いが出ましたね。

池田(PM):設計側としては、さまざまな意見を取り入れつつも、自然な統一感をどのように持たせるかが難点だったと思いますが、同時にそこが腕の見せ所でもあったと想像します。部屋ごとに内装が違うなど、工場建設でこれだけ内装に時間と労力をかけた事例はあまりないと思いますが、非常によくまとまっていると思います。

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プロジェクト部 プロジェクト室 シニアマネジャー 池田達也(プロジェクトマネジャー)

編集部:一方、外観は黒が効いたデザインで、とてもシックですね。

池田(PM):アクセントとして黒い外壁を使っているのですが、これは当社の設計からの提案で非常に気に入っていただけました。この土地の前面は団地一体の調整池となっており将来的に他の建物が建つ予定はなく、池を挟んだ国道から建物がよく見えるんですね。そこが、お客様がこの土地を選ばれた理由の一つであり、外壁に取り付けたお客様のロゴマーク看板と合わせて非常にシンボリックな外観になったと思います。

藤田(所長):その外壁サインですが、タイマー設定の内照式となっており、夕方17時にはライトアップされ、国道から非常に目立ちます。従業員の皆様の中にもその国道を通勤で使用されている方が多くいらっしゃるようで、建設中も大変楽しみにされ「いつ見られるようになるのか?」とよく聞かれました。新社屋を見ると誇らしい気持ちになり働く意欲がわいてくる、とも伺っています。そのような話を頂くと我々もうれしいですね。

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夜間外観

早めの調達でスムーズな現場運営を実現

編集部:現場運営ではどんなところがポイントでしたでしょうか。

藤田(所長):資機材の確保や計画通りに労務を確保できるかがポイントでした。資機材の面では、鉄骨や外壁パネル、設備機器などの納期が従前より長期化していたため、早期発注すべく、仕様の確定が急務でした。また、労務に関しても建設業従事者の減少や高齢化に伴い、必要人員が確保できるのか、従来通りの歩掛で工事を進めることができるのかなどの懸念がありました。結果としては、プロジェクト関係者がこれらの状況を共通認識として捉え、互いの役割を全うしたこと、更に我々の協力会である「建栄会」をはじめとする専門工事業者の多大な協力とその機動力を活かすことで、計画通り順調に工事を進めることができております。

編集部:他に工事で意識された点はありますか。

藤田(所長):実質7か月の工事期間でいかに効率よく、確実に工事を進めていくことができるのかを考えましたね。というのも、建物の南面及び西面には企業緑地がすでに配置されており、その範囲は工事で使用できないとの制約が課せられていました。その企業緑地から建物までの距離が2m程度しかなく、資機材を運搬するための重機や車両の行き来は難しいと判断しました。重機の寄り付きが可能な時期は基礎工事中であり、鉄骨建方以降は人力作業となり、非効率な作業となります。やもすれば、本来不要な大型揚重機を使用しての作業となり、無駄なコストの発生や工程にも影響を与える結果になりかねません。それらの観点から鉄骨建方開始までに外構(雨水側溝)工事や設備基礎工事を先行して進める計画としました。

また、本建物は、2階建ての恒温工場(2階は本社としての執務スペース)と平屋の加工工場の2棟で構成され、EXP.Jにてつながった構造となります。ここでも作業手順を見誤ると手直し作業による工程遅延や漏水の発生など重大な品質の不具合につながりかねませんので、納まりの検討をするとともに作業手順に間違いがないかの検証も慎重に行いましたね。

その他にも内装工事を前倒しで進めるための手段や環境災害(矢水協)についてもそうですね。

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プロジェクト部 建築工事室 シニアマネジャー兼現場所長 藤田隆博

池田(PM):建物の裏手には設備基礎もあり、通常なら建物が建った後に設置するという手順をとりますが、今回は建物が建った後ではその場所に入れないため先行して工事が必要でした。こういった通常とは異なる順序での工事計画の実現に向けてプロジェクトメンバー内で密に情報を共有し、実行に移せた結果だと思っています。

引き渡し後もお客様とのつながりを大切に

編集部:引き渡しまで後1ヵ月を切りましたが、改めてプロジェクトを振り返って今回の成果や今の想いをお聞かせください。

池田(PM):2019年から関わってきてようやくここまできたなという想いです。またきっとご納得して受け取っていただける建物に仕上がったと、達成感も感じています。今回は建築としては長期間のプロジェクトだったこともあり、途中でプロジェクトメンバーの変更もありましたが、当社は誰が担当してもレベルの高い仕事ができることや一人ひとりが十分に力を発揮できることをお客様に示せたのかなと。これも成果の一つではないかなと思います。

川崎(営業):私は2020年から本案件に携わり、やっと形にすることが出来そうだという達成感と安堵感がありますね。お引渡し後はアイジーエヴァース様が操業を開始されますので、お引き渡しをして終わりということではなく、アフターサポートもしっかりと取り組んでいくことで諸先輩方が繋いできてくれたお客様からの信頼を、これからも末長く繋いでいきたいと思っています。

池田(PM):そうですね。今回の計画にあった工場の温度管理や空調については、実際稼働させてワンシーズン過ごしてみないと検証できない部分もあると思います。どんな機械を入れ、どんな運転をするのかというところも実際に使ってみないと厳密にはわかりません。引き続きお客様をサポートできるように体制を整えていきたいですね。

藤田(所長):我々はお客様のお金を預かって仕事をさせていただいていますので、「無駄をなくし、いかにお客様のかゆいところに手が届くか」というところを意識して、プロジェクトに携わっております。今回もお客様目線を最優先として工事を進めることができたと自負しており、充実感もあります。残すところ1か月を切りましたが、お客様に御満足いただけるよう更なる造り込みを行い、お引き渡しの際には、社長様をはじめ、従業員皆様の笑顔が見られることを楽しみにしています。

編集部:お忙しい中、ありがとうございました。

アイジーエヴァース(株)依佐美地区本社工場計画

【プロジェクト概要】

所在地   : 愛知県刈谷市半城土町生出104-14

工期    : 2022年9月16日~2023年4月28日

設計・監理者: 日鉄エンジニアリング(株)

延床面積  : 3,424.90㎡(1,036.03坪) 

敷地面積  : 7,434.92㎡(2,249.06坪)

鋼材使用量 :約402t(鉄骨:約285t 鉄筋:約117t)

建物用途  :工場(自動車部品の金型製作工場)

階数/構造 : 地上2階/鉄骨造(耐震構造)

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