「鋼×想=力」特集
現場の仕事はどう変わる? DX推進に向けた取り組み【後編】

2022年9月29日

ご安全に!

建設現場で導入が進むDX(デジタルトランスフォーメーション)について、当社の取り組みを紹介する連載。後編では現場の声から見えてきたDX導入のメリットと活用事例、そして今後の展望について現場担当者の声を交えながらお伝えします。


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座談会メンバー紹介
都市インフラセクター 建築本部 プロジェクト部 プロジェクト室 マネジャー/岩田篤資、建築本部 プロジェクト部 建築工事室 マネジャー/水野公義、建築本部 プロジェクト部 建築工事室/鈴木朝貴

直感的操作で誰もがすぐに使える建設現場アプリが活躍

編集部:関東地区で施工中の物流施設の建築現場に来ています。こちらの現場では当社の建築DXをほぼフル装備で活用されているということで、お話を伺うのが楽しみです。

水野公義(建築工事室 マネジャー):工事主任の水野です。全てのものをご紹介すると1日では終わらないかもしれませんので、主なツールに絞ってお話させていただきます。

まず事例を1つご紹介します。
工事現場というのは日々さまざまなことが起こります。
例えば、職人さんが扉の枠を納めにいったが「下地の高さが違っていて入らない」といった報告が入るとします。そうした場合、従来なら①現場を見に行き現象を把握したら事務所に戻り、②下地の図面・枠の図面・設計図を印刷して現場に戻って、③何が間違ってるのか特定して足りない図面があればもう一度事務所戻ってまた現場に戻って、④是正指示用の写真をとって事務所に戻り、⑤写真をPCに読み込んで印刷して、⑥是正内容・是正業者などの指示を図面と写真に書き込んで、⑦必要部数の指示書を印刷したら、⑧依頼する職人さんを探しに行って指示説明を行うという手順で対処していました。

こうした一連のトラブル対応が「iPad」を携えて現場に一度行けば全て完結します。具体的には「BOX」で図面を開き確認、指示書は「eYACHO」で作成、図面・写真・を張付けて指示(手書き&キーボード入力)入力。最後は「Direct」を使って職長のスマホに送信。電話やチャットアプリ「Direct」で補足説明をする。という手順になります。アプリの導入で業務時間短縮、管理者の負担軽減につながった事例です。

編集部:アプリの操作というのは、すぐに誰でもできるものでしょうか?

水野:はい。直感的操作で誰でもすぐに使いこなせるのも「eYACHO」の利点だと思います。現場研修にきた新入社員もすぐに覚えて使いこなしています。特別な指導は全く必要ありません。今のが「eYACHO」の本来の使い方です。

我々は「eYACHO」のシェア機能を使って、日常業務の改善を試みました。朝礼・昼礼打合せや会議運営にも活用した例です。前編でもご紹介しましたが、「eYACHO」を使うと各自のデバイスから同時に「見る」「書く」が簡単に出来ます。以前はホワイトボードに書き込んでいた作業配置図(通称:朝礼ボード)を、クラウドデータ化&一元管理することで作業間調整業務の効率が飛躍的に上がりました。

編集部:打合せに必要なものはモニターとテーブル、iPad。みんなで同時に書き込んで朝礼時にはモニターに写すだけで済むんですよね。

水野:その通りです。実際にやり始めるとさらに工夫が必要でした。
説明する安全当番はiPadを操作する必要がありマイクが持てません。iPadは譜面台に載せ、マイクの代わりにインカムを用意して両手をフリーにして説明を行うスタイルです。

編集部:チャットアプリのDirectは、どういった場面でよく使いますか?

水野:グループLINEのように使えますので、現場で起きたトラブルや問題箇所の報告をしたり、送信相手を限定して職長のみに指示書を送ったり、その補足説明や作業後の報告までチャットで済んでしまいます。メッセージの既読、未読確認もできます。おかげで現場を何度も往復し駆け回る必要がなくなりました。


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便利なチャット機能「Direct」(一部画像を加工

ライブカメラや映像活用で、現場へ行く回数を削減

編集部:ちなみに設計段階で利用中のDXツールはありますか? BIM/CIMが知られていますが他にはどのようなツールがあるでしょうか。

岩田篤資(プロジェクト室 マネジャー):着工前の現地調査の際に360度カメラで撮影しておいて、後日図面と紐づけしプロジェクト関係者で共有するといった使い方をしていますね。グーグルマップのようなものです。移動しながら現地を見学しているような映像を見ることができますので、現場に行ったことがなくても「なるほどこういう敷地の現場なんだ」と視覚的に把握できます。非常に便利です。

水野:設計段階ではないですが、工事の進捗状況の記録にも360度カメラを使っています。毎週1回、工事記録動画を全方位で記録し保管しておくのです。動画はYouTubeにもアップして、現場見学や教育資料として展開しています。


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スマホを前後色々な方向に向けることで、まるでその場にいるような映像を見せることができるので、コロナ禍においては録画映像を使って現場ツアーを実施することもありました。

鈴木朝貴(建築本部 プロジェクト部 建築工事室):360度カメラで撮影しておいた画像や映像を保存しておけば、そのときに見落とした部分があっても後で確認ができて便利です。難点は画質でしょうか。リアルで見るほどには精巧な画像にはなりません。今後の開発に期待したいところです。

現実世界にホログラムをミックスし完成予測が容易に

編集部:シミュレーション技術と言いますか、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった分野ではいかがでしょうか。

水野:Mixed Reality(複合現実)という分野にカテゴライズされる技術を試しています。Hololenz2というホログラフィックデバイス(Microsoft社)とTrimbleConnect(Nikon-Trimble社)というソフトを試験的に使っています。

このホロレンズを装着すると、例えば現場の床や天井といった場所(現実空間)に今後設置予定の機器や配管(仮想)を投影して重ね合わせて見ることができるんです。目の前に完成した姿が浮かび上がるイメージです。今のところは寸法や位置確認に活用しています。

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画像左)実際の映像と3Dモデルを組み合わせた複合現実
画像右)編集部が実際に装着して複合現実世界を体験。

編集部:装着してみましたが、不思議な感覚ですね。空間に手を伸ばして操作するとズームイン/アウトも簡単にできます。周りの人から見たら相当変な動きです。

鈴木:その他では「QRコード」とGoogleフォームを使った日常点検が導入されています。機材の貸し出しや始業前点検をスマホやタブレットで確認できます。あとは現場の進捗状況の管理ですね。検査対象の部屋の検査対象部位にQRコードを貼り付けておき、読み込むと工種/業者/担当者/完了か未完了を確認できるようになっており業務効率化が図られています。

ヘルメットの機能も進化しています。ヘルメットにセンサーを取り付けたものですが、ひたい温度を検知して熱中症の危険度を判定し、近くの作業者に知らせます。作業者同士はBluetoothでつながっており、相互見守りができるヘルメットですね。

編集部:熱中症の感知&報告まで自動で行えるんですね。鈴木さんは入社2年目の若手ということで、デジタルツールには慣れている世代だと思います。建築DXのさまざまなツールを使ってみてどう感じていますか。

鈴木:現場に行かなくても報告が写真とともに上がってきて視覚的にわかりやすい指示が出せるということで、管理者の負担はかなり削減できていると思います。ただ自分は若手だからこそ現場をもっと見ておいた方がいいし、現場に出て目を養うべきなんじゃないかと思うことはありますね。


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(建築本部 プロジェクト部 建築工事室/鈴木朝貴)

水野:いいところに気づきましたね。やはり何か起きた時に現場に集まってたくさんの人の目で見ることで気づくことってありますからね。DXをうまく取り入れつつも、そうした〝ヌケ〟やアナログの良さをどう埋めるかというところは今後の課題ですね。

これからのDX推進を成功させるために

編集部:現場のこんなことがDX化されたらいいのにというものはありますか。

水野:位置情報の把握でしょうか。建設現場は本当に広いので、機材一つとっても今どのフロアのどこで稼働しているかというのがリアルタイムにわかるといいですね。そのためには現場に独自のメッシュWi-Fiを構築する必要があります。現場ごとにできるようになるとさらに効率が良くなると思います。

編集部:最後に今後の展望についてどのようにお考えか。DX化を積極的に進めてこられた水野さんと岩田さんにひと言ずつお願いします。

水野:DX化はもう当たり前になっていて浸透しつつあると思います。これからさらにIoT化、DX化が進んでいくと思いますし、良いものはどんどん取り入れていくべきです。競争力をつけるという点でも業務の効率化という点でも避けては通れない手段だと思います。

ただ、ツールに頼り過ぎてしまうといざ電気がシャットダウンしたときなどに対応できないことがたくさん発生することが予想されます。強固なデジタルインフラを整えることも大切ですが、もっと重要なのはスマホやPCが無くても「紙とペンと知識」で仕事がこなせる従前の技術です。例えば人に伝えられるスケッチが描けるとか...全てがDXに切り替わるということではなく、今後もデジタル技術を活用する部分とそうでない人の目や脚を使う部分と、両者の共存でやっていくのかなと思いますね。

岩田:デジタル技術やツールはどんどん新しいものが出てくるので、常にアンテナを張っておき情報収集しながら取り入れていくことになると思います。本当に役に立つIoTとはどういうものなのかを、エンジニアリングに携わる我々が実際に使って肌身に感じて取捨選択していくということになると思います。

編集部:コロナ対応のための入場者管理から現実世界とホログラムが融合したMR技術まで、幅広いツールが建設現場に浸透してきていることを実感できました。DXによって仕事のやり方が大きく変わる中で職人さんたちもスムーズに移行できているようで、ユーザーフレンドリーな形で提供されることが多くなってきている印象です。そして今後の導入においては自社に有益なものをどう見極めるかということがカギになりますね。本日はありがとうございました。

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