「鋼×想=力」特集
技術者インタビュー 設備改修・リニューアルへの取組

2020年3月6日

今回は、2月某日に建築設備室のベテラン技術者に行ったインタビューをお届けします。長年の経験の中でも印象深いプロジェクトの一つである「紀尾井ホール改修工事」の経験談を中心に、仕事の難しさや意義、更には若手への期待まで語っていただきました。

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設計技術部 建築設備室 マネジャー 川辺信雄

入社以来29年間建築設備の施工に携わり、豊富な知見を持つベテラン社員。

音楽ホールならではの特徴を掴むことからスタート

編集部:まずは川辺さんのご経歴を教えてください。

川辺: 1991年に当時の新日本製鐵に中途入社しエンジニアリング事業本部建築設計部建築設備室に配属され、現在入社30年目を迎えるところです。実は、入社してから、主に設備の施工を担当し、設備設計というのは一度も携わったことがありません。現在の建築・鋼構造事業部は大型物流施設や工場などを中心に取り組んでいますが、過去には本当に多種多様な建物を手掛けていました。私自身は、格納庫の施工をはじめ、スーパーマーケットやマンション、病院、屠殺場、地中熱の設備工事の現場管理などをやってきました。非常にたくさんの経験ができたと思います。

編集部:本日のテーマである「紀尾井ホール」は、当社が元請施工した施設ですが、川辺さんは新築工事の施工に携わられたのですか?

川辺:はい、担当しました。紀尾井ホールの新築工事(1993年から1995年)は新日本製鐵の創立20周年記念事業として、もともと新日鐵の迎賓施設があった紀尾井の地に、当時話題となっていたメセナ(=企業による文化・芸術支援の活動)の一環として建設されました。約800席を有する中ホールと、邦楽に特化した小ホールなどが置かれ、高品質の音楽ホールとして完成しました。

編集部:それだけのホールとなると、施工も大変だったのではないでしょうか。

川辺:そうですね、社内では音楽ホールの設計や施工の経験のある人はいませんでしたから、ホール内の残響や音の跳ね返り方が良いかどうか、1/20サイズの模型で実験し確かめながら工事を進めたり、実際にほかの著名なホールで行われる音楽会へプロジェクトメンバーで足を運んだりと、とにかく音楽ホールならではの特徴をつかむために工夫を凝らしたのを覚えています。

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営業を継続しながらの改修工事

編集部:なるほど。そのように大変な思いで新築工事を担当されたあと、2016~2017年に今回のインタビューテーマでもある同ホールの改修工事が行われたのですね。改修工事はどのようなものだったのでしょうか。

川辺:紀尾井ホールの大改修工事は、2016年度、2017年度の2回に分けて各年度40日間の短工期で行われました。なぜ2回に分けた改修工事なのか、理由がわかりますか? 営業中である紀尾井ホールは長期間の休館ができないからです。休館が長くなれば、それだけ公演日が減ってしまいますからね。2年合わせて計80日間の工期で、空調熱源改修工事や中央監視設備の更新、照明のLED化、カーペットの交換など行いました。

編集部:改修工事で難しかったこと、特に苦労されたことは何でしょうか。

川辺:現役の音楽ホールの改修ということで、計画段階からかなり神経を使いました。公演日程調整の関係から、施設の休館期間2年前には確定させなければいけなかったのです。さらに、もともと新築工事を当社が担当していたとはいえ、20年近くも経ったタイミングでの改修なので、元の図面と現在の配管などに違いがないか、一つ一つ現地で実測し、施工中のミス・手戻りなく進めるための準備が必要でした。

編集部:改修工事では入念な計画、下調べが大事なのですね。

川辺:もちろん施工中も大変ですよ。改修工事の間もチケットショップや迎賓施設は営業を続けるため、それらの施設に影響が出ないように細心の注意を払わなければなりませんでした。特に空調熱源機の更新による騒音・振動はホールの命である音に影響しますので、絶対に失敗できないという緊張感がありました。また、改修工事が終わったその週から次の公演が始まってしまうので、絶対に工期遅延ができないというプレッシャーもあったんですね。今のご時世とは逆行してしまいますが、昼夜交代24時間体制で施工を進めながら、お客様の期待に応えるべく、工期順守を徹底しました。竣工後も更新した空調熱源の稼働状況を新しい中央監視設備で監視するフォローを1ヵ月間程度行い、更新した設備が要求水準を満たしているか確認する必要がありました。

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難度の高い室内騒音評価値・NC値15を達成

川辺:2年で80日間というと一見短い工期ですが、実は金額規模で年に換算すれば20億円程度の工事をするようなレベルで、裏を返せば、それだけの工事の質と量を求められているということです。各年40日間の工事とはいえ、その期間だけ必要な施工管理者を確保するのが大変でした。職人さんも同様に多く投入しなければなりませんが、労務がひっ迫しているなか、40日間の為だけに働いてくれる人を探すのも、これまた難しい。改修工事はなかなか表に出てこない仕事かもしれませんが、意外と大変なんですよ。

編集部:そのほかに、改修工事と新築工事ではどのような違いがありますか?

川辺:改修工事では現場にすでに他人のものとなっている建物や設備、使用されている什器など、働く人や住む人の所有物が存在しています。改修工事の着工前には、それらを紛失したり、傷つけたり汚したりしないよう細心の注意を払わなければならない点は、新築工事との違いといえます。具体的には、毎日の工事開始前に、施工する場所の写真をすべて撮影しておき、当日の工事終了時に、工事に関係のない箇所が工事前通りか(何か不具合が発生していないか)どうか確認する必要があります。 営業的な観点で言えば、改修工事は非常に手間暇がかかる反面、これにキメ細かく対応することで、新築時からお付き合いするお客様の信頼を高め、継続的にご発注いただける関係に繋がっていく、という大きな意義があると思っています。

編集部:ありがとうございます。川辺さんのお話から、改修工事ならではの難しさやどのような苦労があったのかが良くわかりました。数多くのご経験をされた川辺さんにとって、設備工事の醍醐味は何でしょうか。

川辺:設備以外にも言えるかもしれませんが、やはり難度の高かった工事はよく覚えていますし、達成感がありますね。紀尾井ホールの新築工事では、室内騒音評価値でNC値15という非常に高い(=非常に静かな)レベルを求められましたが、無事達成できました。当時でそのレベルを達成できていたホールは数少なかったんじゃないでしょうか。

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お客様の満足度が一番気になる

編集部:仕事をする上でのモットーやこだわりはありますか。

川辺:クレームの無いものを作らねばならないと思います。施工の際に迷った時の判断基準として、余分にコストがかかったとしても「クレームにならないか?」を気にするようにしています。当社の手落ちでクレームにつながれば、お客様との関係が壊れてしまいますし、それは当社にとって大きな損失ですよね。やはり最初からクレームなく、お客様に満足していただけるように施工するのが大事ですね。

編集部:建築設備室には多くの若手が在籍しています。若手に伝えたいことはありますか?

川辺:最近の若手の皆さんは大変忙しく、時間がないことが少し残念でかわいそうです。私はこれまでたくさんの業務経験をさせてもらいましたが、その中で失敗しながら悩み考えたことが、後々の自分の知恵となり財産になっていると感じています。若手の皆さんは、こうした時間がとりにくい。一方で、今はインターネットなどを通じて多くの情報を手に入れられますし、そういう手段もうまく使いながら、知識を深め経験を積んでほしいです。効率化の時代の流れもありますから仕方がない面はありますが、やはり失敗をたくさん重ねて自分で悩む。この経験が自分の力になると思います。

編集部:最後に、当社建築事業の目指すべき将来像についてお聞かせください。

川辺:建築は、大きく言ってしまうと、ある程度の会社であれば技術的な差がつきにくい業態だと思います。それだけに目指すところや他社との差別化というのは正直難しい。その中でも当社ならではといえば、例えば製鉄所の跡地利用なんかは切り口かもしれませんね。また近年、災害が多いのでBCPという観点もキーワードじゃないでしょうか。今もそうですが、これからの建築では、大規模災害に耐えるためにどのような設備が必要か?トイレの下水はどうするのか?非常電源はどう確保するか?その必要量は?などを予測しながら計画をする必要があると思います。

編集部:本日は貴重なお話をありがとうございました。

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