「鋼×想=力」特集
残業が減る代わりにやりがいが増えていく
「建設アシスト」導入プロジェクト【後編】

2022年5月23日

ご安全に!

現場監督の書類業務をサポートし、生産性を向上させるBPO(※)サービス「建設アシスト」。KMユナイテッド様のこの事業は、現場監督の平均残業時間を7割近く削減した実績があり、建設業界の働き方改革に貢献する新しい仕組みとして注目されています。

後編では、当社が2年前から導入した「建設アシスト」の具体的な成果や今後の展望について、KMユナイテッドのCEO竹延幸雄様と事業営業統括責任者の大瀧真美様、当社プロジェクトメンバーが語った座談会の模様をお届けします。

※BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とは企業活動における業務プロセスの一部について、業務の企画・設計から実施までを一括して専門業者に外部委託すること。

前編『現場監督の疲弊を建設業特化型BPOで救うKMユナイテッド様インタビュー【前編】』はこちら


左から株式会社KMユナイテッド 事業営業統括責任者 大瀧真美様、CEO竹延幸雄様、日鉄エンジより都市インフラセクター 執行役員・建築本部長 岡田芳正、プロジェクト部シニアマネージャー 尾上和彦


増え続ける書類業務が現場監督の大きな負担になっていた

編集部:最初にプロジェクトメンバーに伺いたいと思います。「建設アシスト」導入のきっかけについて教えてください。

日鉄エンジ岡田芳正(以下、敬称略):KMユナイテッド様の親会社である竹延様とは、以前からお付き合いがありました。「建設アシスト」という事業を始められたと伺い、主旨に賛同し導入の話を進めました。

背景としては、建設業界の労働基準法改正の規制適用が2024年の4月に迫っていることもありますが、以前から働き方改革を推進していく中で、膨大な書類作業に費やす業務をどうにかできないかという課題がありました。

我々建設業の仕事をコア業務とノンコア業務に分けると、コア業務というのはQCDS(クオリティ・コスト・デリバリー・セーフティ)をいかにやり遂げ、お客様に満足していただける建物を引き渡せるかという点が重要になってきます。しかし実際にものづくりをするとなると、検査1つにしても書類をきっちりと残さなくてはいけません。これが現場の大きな負担となっていました。

編集部:作業所の棚にキングファイルがズラーっと何冊も置いてある風景はもうお馴染みですね。

岡田:そうですね。書類が増えた背景には、もう1つISO9000という品質マネジメントシステムがあります。導入している企業は決められたプロセスを履行した上で記録を全て残し、計画書、検索記録といったものをいつでも閲覧できるようにしておく必要があるんですね。加えて、品質に対する社会の目が一層厳しくなっていますので、製造現場ではコンプライアンスやリスクマネジメントのために書類を残すことの重要性が増しています。

現場監督は、日中は現場での段取りや指示の仕事がありますから、書類作業はどうしても夕方以降になります。その結果、毎日夜9時、10時まで残業ということになってしまうのですね。そこで、我々だけで解決できない問題をアシストしていただくため、KMユナイテッドさんにお願いしたという経緯になります。

作業の改善や効率化に向けて意欲的な提案もしてもらえる

編集部:実際にBPOサービス「建設アシスト」をどのように導入していったのでしょうか?

日鉄エンジ尾上和彦(以下、敬称略):昨年の4月に、KMユナイテッドさんの東京アシストチームが立ち上がるということで、私が担当窓口になりました。まずは業務の棚卸をし、外部委託できそうな業務の一覧表を作るところからスタートしました。

そして、以前から改善したいと考えていた業務についてアシストさんたちと相談しながら検討をはじめました。例えば施工計画書ですが、これまでの書式はワード文書で入力がしにくく使い勝手が悪かったのです。それをエクセルのスキルの高い方にお願いし、フォーマットを標準化しました。結果、使い勝手が良くなり作業効率が格段に上がりました。「アシストしてもらうのって意外といいな」と、早い段階から手応えを得ました。

そこでいくつか施工現場をピックアップして、工事写真の整理の手伝いや議事録の下書き作成というところから外部委託することにしました。定例会議にはアシストさん全員に参加していただき、議事録の書式はこうしたいとか、検索機能を使ったときの理想的なアウトプットはこうですよといった要望を伝え、それに対してアシストさんからもさまざまな提案をしていただきながら、現場が使いやすいように改善していったという感じですね。

編集部:現場の業務と要望を見える化し、どこを依頼するか調整を図っていったのですね。

尾上:そうですね。半年後には我々も慣れてきまして、現場の施工管理者がアシストさんに直接サポートを依頼できる環境が出来上がっていきました。共通のメニュー表も完成し、非常に短い期間で体制を整えることができました。

編集部:建設アシストのメリットをどのように捉えていますか。

尾上:大きく3つあると思います。1つ目は優秀な人材にサポートしていただけること。2つ目はチーム対応により業務の共有や引き継ぎがスムーズなことですね。業務に必要なマニュアルや引き継ぎの資料は、アシストさん側で作ってくださるので、メンバーが変わっても、その都度我々が教育する必要がありません。この部分は、いちばんのメリットといってもいいかもしれません。

3つ目は提案力です。例えば新規の写真ソフトを導入しようとしたときに、現場には使いこなせない人も出てきます。そのような場合にもアシストさんから「説明用の資料を作ります。現場のスタッフへの教育も担当しましょうか」と、次の展開について意欲的な提案をしてもらえるんですね。加えて、アシストの皆さんが喜びをもって仕事を引き受けてくださる点も感心するところです。「自分たちがいることで現場が助かってうれしい」という気持ちが伝わってきます。その結果、非常にいい循環で業務が回っていくので、その効果に驚いています。現場は本当に助かっていると思います。

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努力が報われるから「やる気」が生まれる

編集部:残業時間は減りましたか?

尾上:若手施工管理者の残業時間は確実に減っています。これまでは今日の仕事をこなし、明日の仕事の準備だけで精一杯だったのが、1週間先、1ヵ月先の仕事を計画したり考える余裕が生まれていますね。

岡田:今回、自分たちがやっている仕事を分解し可視化できたことも大きな成果だと思いますね。単にITを導入したり手間を減らすだけでは働き方改革とは言えないと思います。自分たちのコア業務は何か、具体的に何を目指すの?という点が重要なんですね。働ける時間が限られている中で、業務を見える化し、得意な人に業務を振り分ける。そして負担になっていた業務を手放すことで、その分「お客様に満足してもらうためにどんなやり方があるだろう」と考えることに頭を使えるようになれば、現場の社員に「やりがい」が生まれてきます。個々の得意分野や技術が生かされ「やる気」が引き出される。「これこそが、地に足のついた働き方改革なのだ」という印象を持ちました。

KMユナイテッドCEO竹延幸雄様(以下、敬称略):ありがとうございます。これまでサポートする側は「ミスがない仕事をする」ということが重要で、働く人は誰でもいいという考え方だったと思います。しかし、持続可能な働き方を目指すのであれば、サポート側も働く個人個人の努力がしっかりと報われ、やる気が生み出されるよう人材を活用していくことが求められていると思いますね。そもそも我々は、時短でしか働けない人がいたとしても、それを仕事の足枷だとは考えていません。1人で時間が足りなければ2人できっちりやりきればいいのです。

事業営業統括責任者 大瀧真美様(以下、敬称略):やりがいを引き出してくれるところは、当社の「建設アシスト」の強みであり他の会社にはない部分だと思います。

私は、建築学科を卒業して建築士の資格を持っています。しかし、採用面接に行くと、働き方改革に力を入れているという会社であっても「(シングルマザーだから)フルタイムは無理なんですね。厳しいかな」と言われてしまうことが度々ありました。その点、KMユナイテッドは180度違いました。採用面接で「実は子どもがいて...」と話したら、「だから何?この仕事やりたいんでしょう?」と言われて本当に驚いたのです。もうやる気しか生まれないですよね。

現場の方と話していると、時間に追われ、品質も高めなきゃいけないということで、余裕のない若手社員の方が多いと感じます。そこに、私たちアシストが入って「もうその仕事は手放して大丈夫です」と半ば強制的に仕事を任せていただく。もちろん責任は現場の施工管理者の方にあるのですが、気持ちを少し楽にしてあげられるんじゃないかと。

岡田:色々な事情がある中で、それぞれにやりがいが生まれてくるとすれば、互いにwin-winですね。

竹延:そうですね。建設会社の支店ごとに不足人員を雇う場合、これまで東京2人+大阪2人の計4人が必要であるなら、我々のサテライトオフィスに業務をお任せいただくことで、3人に集約することができます。そうすると総人数を抑えられた分、個々のアシストの報酬をアップすることができるんですね。それは、彼らのやりがいにつながり、時間内に集中して生産性の高い仕事を成し遂げようというモチベーションにもなります。

同じゴールを目指すためにチームで取り組んでいく

編集部:今後の展開、課題といった点についてはいかがでしょうか。

岡田:現在では、建設アシストにお願いするメニュー表ができていますので、どのようなサポートを望むかは現場ごとの判断に任せています。ただ現場が忙しすぎて、アシストを依頼したくてもその段取りをする時間もないという場合もあるんですね。また、頼み方が上手な人もいれば苦手な人もいます。その辺は、今後の課題かなと思いますね。

竹延:これからの時代、人材の多様化は必然です。KMユナイテッドで職人育成事業を始めたときに、同じメンバーで仕事をしていたら新しい人材は入ってこないことに気づいたんですね。事実、週休1日をやめて週休2日にしたら、優秀な人材がたくさん入ってきてくれました。これらの人材は働き方にそれぞれ制約がありますから、お互いに頼み頼まれ合わないと仕事がうまく回っていきません。今後はますます罪悪感なく仕事を頼める人が評価される時代になるでしょう。

岡田:建設業界では、1人1人がやりきる、早く1人前になるといったところが重視されてきました。そのために残業も厭わない姿勢が賞賛される文化がありました。そのため、現在の働き方改革は世代によっては戸惑いを感じている部分もあり、発想の転換が必要ですね。私自身は頼み上手になることも大切ですが、その前に仕事をシェアできる環境づくりが重要だと思っています。「俺が手柄を上げる」という考え方ではなくて、同じゴールを目指すためにアシストさんたちも含めてワンチームでやりきるという考え方ですよね。

竹延:同感です。人間だから辞めていく人も出てくるでしょう。でも、それもチャンスに変えて知恵で乗り切る、全員でやりきるということを目標にやっていくことが重要ですよね。お客様から教えていただいたノウハウはしっかり引き継いで、残していくことも我々の大事な務めだと思っています。建設現場の悩みを我々に吐露していただける、そしてそれをサポートさせていただけるということは、とんでもないビジネスチャンスをいただいていると思っています。

周りを知り、提案力を高め合う仕組み

岡田:御社はこれまで私たちの機密情報はしっかりと守りながら専用のサポートをしてくださっていると思います。その上で、業界全体を俯瞰して我々の改革が遅れている部分があれば、ご指摘いただけるとありがたいですね。

大瀧:我々のアシストは各社専属の固定メンバーになりますので、情報管理は徹底しておりご心配には及びません。御社はBPOのフェーズとしては現在業界の先頭を走っていらっしゃると思いますが、ソフトの利便性など情報をシェアできる部分では、積極的により良い方法をお勧めさせていただきます。

竹延:サテライトオフィスでは、2ヵ月に一度BPO研修というものを行い、全国各地の建設アシストがリモートで参加し、これまでの取組を振り返ったり、これからの挑戦を明確にしたりすることで、互いに学び合う機会を設けています。周りを知るということを大事にしています。

具体的には「こういう工夫をしたらこれだけ生産性が上がって、お客様に喜んでいただいた」ということを、各チーム10分間の持ち時間で発表するんですね。このような情報をシェアすることで、自分のお客様に相談された時に新たな提案をできるようになります。しかも、すでに効果を出している方法ですのでお客様にも喜んでいただけます。内部資料としてではなくお客様に出せるレベルを目標にパワーポイントの資料を作りますので、チームの提案力を鍛えることにもつながります

尾上:ぜひ一度、発表を聞いてみたいですね。

大瀧:この発表会は、お客様にご覧いただいても全く問題のないもの。アシスト同士で厳しい意見を言い合うこともあっていい刺激になっています。よろしければぜひご参加ください。

持続可能な建設業界へ、ノンコア業務の共有化とBPO活用が鍵

編集部:最後になりますが、建設業界全体として見た場合の課題についてもお聞かせいただけますか。どうしたら人材不足の日本において生産性を上げ、持続可能な産業にしていけるでしょうか。

竹延:デジタル化だけを求めても生産性向上は難しいでしょう。ノンコア業務は、業界全体で共通化して良いというのが私の考えです。世界中からBPOの情報が集まってくるという点も当社の強みです。日本の中小企業から大企業まで同じ品質の国際レベルに遜色ないBPOをご提供できると思います。今は建設業に特化してやっていますが、ゆくゆくはものづくり産業でアシスト事業を広げて貢献していきたいですね。

岡田:建設に関わる業務には共通性があり、差別化に結びつかない業務も多々あるんですね。そうした業務は、ゼネコン同士がコンソーシアムで共有する動きもあります。また、我々の都市インフラセクターでは、免制震デバイスも扱っています。製造を委託している会社に都度出張して検査に行く業務なども、近傍のサテライト拠点を活用するなど、今後アシストさんにお願いできるかもしれませんね。

尾上:下請けさんの立場から見たら、ゼネコンごとに書類がバラバラというのは非常にやりにくいと思います。結局、公的機関に提出する書類は1つなのですから、標準化した方がいいものは多々あります。建設アシストを導入させていただき、1年でここまで成果が出せたことはすごいことだと思っています。まだまだ効率化できる部分はあると思います。

竹延:ありがとうございます。お互いにやりがいをもって仕事をやりきるためにも、我々とお客様の関係はものが言えない上下関係ではなく、横にいて同じ目線で問題解決をしていくような関係でなくてはいけないと思っています。あとは、多様化ですね。文系、理系それぞれに得意分野があるように、見積もりソフトの扱い一つとっても得手不得手はあります。経理畑を歩んできた人材は、実は見積もりソフトの扱いが非常に正確で上手いんですね。我々が業務を担うことで最適な人材配置ができ、本来の業務に専念できるということもあります。若手社員の方が新しい視点を学んだり経験をする時間が持てるようになれば、将来すごい技術を開発するかもしれません。そういう力になりたいですね。今後ともよろしくお願いいたします。


株式会社KMユナイテッド
https://www.paintnavi.co.jp/kmunited/

京都府京都市左京区下鴨宮河町7

●建設アシストについて
https://www.coassist.jp

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