「鋼×想=力」特集
省力化工法とICT化で新たな施工技術を蓄積
社員寮建築プロジェクト

2022年4月4日

ご安全に!

今回は、山九株式会社様より受注し、2022年1月31日に完成した「山九千種寮(千葉県市原市)」の事例を紹介します。

本事例は、当社が設計・施工を担当した独身寮の新築工事です。施設利用者の利便性や施設管理のしやすさを追求するとともに、BIMを活用した3Dによるお客様確認、省力化工法やICTツールなどを積極的に採用するなど、新しい試みを採り入れ完工しました。その成果について、プロジェクトメンバーが振り返りました。

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プロジェクトメンバー紹介:

中段右2番目:都市インフラセクター 建築本部 設計技術部 建築設計室 中西秀幸(設計統括者/シニアマネジャー)、下段左2番目:プロジェクト部 建築工事室 岡田直也(現場副所長)、下段右2番目:プロジェクト部 建築工事室 吉田慎吾(工事主任)、中段左1番目:プロジェクト部 建築工事室 菅原良太(工事担当)、上段右1番目:プロジェクト部 建築工事室 山本大翔(新入社員)、上段中央:設計技術部 建築設備室 南雄太(新入社員)

低層住宅地にRC造6階建の独身寮を建築

編集部:はじめに建物の概要や現場の状況を教えていただけますか?

岡田直也(現場副所長):本施設は、山九株式会社千葉支店様の保有している既存の独身寮を集約し、新たに社員寮を建設することを目的として計画されました。新入社員以外の、幅広い年齢層の方が住む独身寮となっており、RC造6階建ての建物です。

RC造ということで比較的労務比率が高くなる建物となりますが、バルコニースラブ、外壁等に工業化製品を採用することで効率化を図り、現場としては、入念な工程計画を立案して、着工時から4週6閉所にトライしました。また、低層の住宅地が多い地域での工事になるため、近隣住民の皆様に対して丁寧な対応を心がけました。

編集部:本プロジェクトが始まっている時期は、山九様の現場が九州で1棟、千葉県南総エリアでも1棟と、3つの建設工事が同時に進行しているという状況だったそうですね。

岡田(現場副所長):そうですね。本施設で、ほかに今回苦労したことといえば、コロナ禍での工事ということで感染防止対策です。また、部材の調達に関しても、一部で海外から調達していたので諸外国の状況を常に確認するなど、納期の管理に苦慮した部分もありました。

BIMでお客様説明をわかりやすく、設計精度も向上

編集部:設計計画ではどんなところがポイントでしたか?

中西秀幸(設計統括者):周辺は低層の住宅地であり、そこに6階建ての建物が完成しますので、山九様からは、周辺への影響を考慮した設計にするようにとのご要望をいただいておりました。具体的には、色彩的に華美になりすぎないようにするとか、日陰がなるべく隣地に落ちないようにといった配慮が、設計上重要なポイントでした。一方で、面白みのない建物にはならないように、シンプルながらも洗練された形状を追求しました。

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編集部:BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を取り入れたそうですね。

中西(設計統括者):はい。社員寮ですので建物の大半は寮室です。同じタイプの部屋が144室続きますので、まず1室を現場で先行して施工して、我々設計者が現物での納まりのチェックや仕様確認をし、お客様にもチェックをしていただいた上で、残りのすべての部屋を仕上げていくという方法を採りました。さらに、それに先行するかたちで寮室の精緻なBIMモデルで確認を行っていたため、施工段階での手直しはほとんど必要ありませんでした。

また、外観、内観(食堂等)についても、客先確認にBIM ツールを活用しました。施工前に建物の3次元モデルを構築し、細かいところまで作り込んで、事前検証に役立てます。従来の二次元の図面は、専門家でないと非常にわかりにくいものですが、3次元にすることで、完成した状態をイメージしやすくなります。説明が非常に楽ですし、お客様に設計の意図を十分に理解していただくといったことが容易になりますね。

編集部:図面の修正や管理も非常にやりやすいと聞きます。

中西(設計統括者):そうですね。我々設計チームでは、意匠設計者がデザインしたものに対して構造設計者が構造部材を決めて、さらに設備設計者が設備機器・配管・配線等配置していくと、単純にいえばそういった流れになるわけですけれど、二次元が三次元になると専門家である設計者にとっても理解が早いですし、事前にチェックができるので間違いが起こりにくくなったりと、設計精度が高まります。また、設計の効率化にもつながったと思います。

ただ、全ての案件でBIMが有効かというとそうではなくて、二次元で間に合うケースもあれば、今回のようにBIMを積極的に取り入れた方がうまくいくケースもあって、使い分けが必要だと思います。

PC化で人工を大幅削減、ITC化で業務効率化を実現

編集部:施工はどのように進んでいったのでしょうか。新たに導入した施工法や現場ツールについてお聞かせください。

吉田慎吾(工事主任):建物がRC造ということで、1階から6階までの躯体工事を進めていく過程で、躯体が完了した下の階から順に内装工事を進めていったことが工程上のポイントですね。そして、その作業をスムーズに進めるために、仮設計画や重機が搬入する際の動線等を細かく管理することが、最大の課題でした。

現場運営は、若手社員4名が担当するということになっていましたので、マスター工程をもとに、サイクル工程を含む竣工までの詳細な工程を早々に書き上げて、若手が動きやすいよう段取りしました。プロジェクトの計画では、本体工事が2020年11月~2022年1月31日の予定でしたが、躯体施工中の4月には工事完了までの工程を書き上げ、また11月末には工事を完了させるという計画でスタートしました。

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編集部:施工に際して緻密に計画を練られたということですね。今回特に「省力化工法」に注力したとお聞きしましたが、どのようなものですか。

吉田(工事主任):今回の計画では、躯体工事を順調に進めて、後に続く工事が滞りなくスタートできるようにすることが重要になります。そこで、2階から6階までのバルコニーをPC化(工業化製品を採用)して、労務の平準化をはかりました。

PC化のメリットは、現場作業員が少人数で済むことに加え、工場で製作したPC板を採用するので現場で使う材料の減少が見込めること、また品質の担保ができるといったことになります。結果として、はつりや補修などの追加工事にかかる金額も抑えられ、1階から6階までで100人工ほどの労務の削減につながったと考えています。

編集部:施工管理者の業務効率化や業務軽減を図る目的で、ICT化を積極的に推進されたそうですね。

吉田(工事主任):そうですね。例えば、これまで現場で使っていた野帳をiPadで利用できるようにした「eYACHO(イーヤチョウ)」、作業日誌を電子化した「日報web」など、紙ベースだったものを電子化していきました。また、「ロボホン」は、新規に入場する作業員への教育をロボットにしてもらう試みで、これにより施工管理者の負荷軽減を図りました。

「BIGPAD」は、モニターに直接タッチできる電子黒板で、ホワイトボードやマグネット板を使って行っていた会議の議事録を電子化できます。そこでのデータはiPad等で現場でも確認できるので便利ですね。また、BIGPADには屋外用もあるので会議室と連携させ、朝礼での現場説明や安全啓蒙に利用しました。こうしたITツールを、若手が中心となってフル活用しました。

菅原良太(工事担当):本現場では、「配筋マスター」というものも活用しました。特徴は、あらかじめ鉄筋の配筋データをアプリに取り込んでおくことで、現場での配筋検査と、品質書類の作成業務を効率化できるというものです。労務の省力化にかなり貢献することができたと思います。

吉田(工事主任):現場の進捗状況の確認にはQRコードを使いました。今回の社員寮のように同じような部屋がいくつもある現場ですと、部屋の前にQRコードを貼っておいて、職人さんがスマホで読み込んで必要な情報を入力するだけで、職員全員で施工の進捗状況が共有できるんです。

また、仕上げ確認には「LAXSY」というツールを使いました。例えば、「壁のクロスに傷が付いている」とかですね、そういう部分をチェックして自動で帳票化できるようになっていますので、協力業者様ごとに是正・完了の可視化ができるようになっています。

今回のITツールの導入においては、若手社員の頑張りが大きかったですね。スマホ1台あれば進捗状況の確認ができるQRコードシステムといったものは、非常にシンプルな仕組みだと思いますが、どういうチェック項目を入れたらいいかなど、アイデアを出し合って使いやすくカスタマイズしてくれました。またITが苦手な職人さんへの教育係としてもよく動いてくれました。

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サイクル工程導入が工期短期につながった

編集部:工期の短縮には、PC化、ICT化といったものが大きく影響しましたか?

吉田(工事主任):もちろんそれぞれが工期短縮につながったと思いますが、施工面での大きな成果は、最後の検査や仕上げに時間的な余裕を持たせた計画を立案し、かつそれを実行できたというところに尽きるかと思います。より良い品質を追求することに時間と労力を注ぎ込めたんじゃないかと。

躯体工事では、同じサイクルを6回繰り返すというサイクル工程で進んでいきましたが、

1回目より2回目、2回目より3回目と同じ工程を繰り返すことで、職人さんの熟練度も上がっていくんですね。厳しい工程ではありましたが、サイクル工程を採用した結果、作業のブラッシュアップにつながり、工期の短縮につながったという面があると思います。

編集部:現場運営では、若手社員の活躍も大きかったということですが、如何でしたか。

菅原(工事担当):周辺住宅の配慮という点では、主に車両入退場や騒音、粉塵などについての作業ルールを策定し、作業員にはルール遵守を求めるといった基本的な対策を徹底して実施しました。

杭・基礎工事の段階で残土山ができるわけですが、近隣が密接しているので、粉塵の被害を防止するためにブルーシートで覆い、高さも仮囲いを超えないように配慮を行いました。また足場の設置に関しても、風が強い地域のため垂直ネットは壁つなぎが取れるようになってからの施工としていましたが、住宅が建物のすぐ境界にある場所では、工事中に釘や道具などが周辺地域の敷地内に落下しないように、先行して貼るなど工夫しました。

コロナ対策では、体温計測や手指消毒など基本的な感染予防を行ったことに加えて、職人さんの入れ替わりが多い場所の感染対策を徹底しました。例えば、休憩所の机の配置を工夫したり、喫煙ルームの人数制限といったことですね。

編集部:車両の出入り、搬入といった部分では、何か工夫されたことはありましたか

菅原(工事担当):そうですね。生コン打設のときなど、出入りが多い時には警備員配置して第三者との誤接触災害防止をしっかりと行なっていました。本工事は、躯体工事をしながら、内装を次々仕上げていくという流れで行っており、各種工事が入り混じってきますので、工事範囲の棲み分け、建物内の人の動線と資機材搬入の動線の分離、クレーンの配置が重要です。日々の動線調整は苦労したことでもあり、頑張ったことでもあるかなと思いますね。報告・相談等には、「eYACHO(イーヤチョウ)」などのITツールが非常に役に立ちました。

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ICT化や現場運営では若手と新入社員が活躍

編集部:新入社員の山本さん、南さんは、いかがでしたか。現場での関わりやそこで学んだことなどを、一言ずつお願いします。

南雄太(新入社員):私は躯体工事の段階で現場に配属され、内装・外構工事、最後の仕上げ工事まで、一連の流れを経験することができました。サイクル工程でしたので、階を重ねていくにつれ、経験値も上がって職人さんにも的確な指示を出せるようになったり、次に何をすればいいかわかるようになったという点でも、現場に恵まれていたと思います。

また今回は設備担当として、内装工事と設備工事の関係性や納まりについて学ぶことができました。QRコードを用いた内装工事進捗管理システムと設備社内検査記録管理システムを任せていただいて、役割を果たせたことも貴重な経験になりました。次に活かせる多くの現場経験を積むことができたと思っています。

山本大翔(新入社員):私は工事エリアにおける、危険箇所の把握や現場を安全に保つという業務を行いました。危険箇所の表示類を徹底するということや掃除道具を把握して適切にフロアに配置することを行なっていました。本配属後は、ウッドデッキ工事を担当し、大まかな施工フローを理解することができました。無事故・無災害で完工することができ、いい経験になったと思います。ICT化では日報WEBに取り組み、ITに慣れていない職人さんたちには、個別でアドバイスを行なったりもしました。

吉田(工事主任):工事現場で自分が責任者になったときには、新入社員とはいえリーダーシップを発揮して進めていかなくてはなりません。二人とも、そうしたことをしっかりと学び取って、大きく成長できたんじゃないかなと思いますね。

編集部:新入社員にとっても、多くの学びがあったということですね。今回のプロジェクトで、技術力やノウハウといった点でどのような収穫がありましたか。

岡田(副所長):菅原さんがリーダーとなって若手社員が作った「RC施工情報シート」は、非常に良いものになったと思います。

菅原(工事担当):RC施工情報シートを作った背景ですが、もとも当社ではRC造建物の案件はそう多くはありませんでした。若手になるとほとんど経験がない人も多いので、RC造の建物の計画を立てるときの、生産性をあげるしくみや品質管理、安全管理といったところのノウハウをまとめました。

文字情報だけでは掴みにくいので、サイクル工程のポイントを現場写真や図面とリンクさせて解説しました。また、データとして社内共有するだけでなく、若手の施工管理者を招集して、対面での勉強会も開催しました。オンラインよりも、顔が見えている研修会でやり取りをすることで、質問や相談を受けることが出来て実りある研修会になったと思います。若手育成と会社としての技術力を底上げしていくための取り組みと考えています。

南(新入社員):私は、今回の現場に配属されてすぐにこの資料を見せていただきました。その上で、目の前で工事が行われていくところを見ていったので、RC造やサイクル工程についての理解がさらに進みました。この資料があってとてもありがたかったです。社内で共有されるべきものだと思います。

菅原(工事担当):そういっていただけるとうれしいですね。

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次の現場へ、技術とノウハウをしっかりとつないでいく

編集部:当社としても、大きな収穫のあったプロジェクトだったようですね。最後に、岡田副所長に総括をお願いします。

岡田(副所長):関係各位のご協力のもと、完全無事故・無災害で完工することができました。現場スタッフは20代から60代まで、幅広い年代層で構成されていましたが、私自身は、風通しの良い現場だったと感じています。

また、工程的にも、吉田主任を中心として、細かく工程管理を行った結果、海外調達の範囲で若干影響はありましたが、最後は余裕を持って、お引き渡しをすることができました。建築主様に対しても、常にプロマネを中心に営業、設計、施工が一体となって、丁寧に対応し、信頼関係の醸成を図ることができたと思っております。

先ほどのRC造に関する資料も、若手社員が中心となって、何度もブラッシュアップをしながら仕上げています。非常に良いものを残せたということは、今後の若手社員育成の点からも、成果を上げることができたと思っております。

編集部:社員向け独身寮の技術・ノウハウの蓄積といった目標も達成され、提案力がより一層強化されたということでとても素晴らしいプロジェクトだったことが伝わってきました。ありがとうございました。

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山九(株)千葉支店千種寮新築工事

【プロジェクト概要】

所在地   : 千葉県市原市千種四丁目10番2

工期    : 2020年12月1日~2022年1月31日

設計・監理者: 日鉄エンジニアリング㈱一級建築士事務所

延床面積  : 5.085.01㎡(1,538.19坪) 寮室数:144室(HC室含む)

敷地面積  : 4,537.17㎡

階数/構造 : 地上6階/鉄筋コンクリート造

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