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サステナビリティ

シャフト炉式ガス化溶融炉による災害ごみ処理

多くの自然災害に見舞われた2018年。地震や水害の被災地が、より早く元の生活を取り戻すために。災害ごみを安全・確実に処理する技術

地震や台風や豪雨など、自然災害は後を絶ちません。毎年のように全国各地で、家屋や道路の倒壊や半壊や浸水などの被害が報告されています。復興のために欠かせないのは電気・ガス・水道といったライフラインの速やかな復旧ですが、「ごみ処理」の施設もインフラとして非常に重要です。私たち日鉄エンジでは、製鉄の技術を生かしたシャフト炉式ガス化溶融炉を用いて、ごみを燃やすのでなく溶かして処理するプロセスを確立し、全国約40箇所のごみ処理施設を建設してきました。シャフト炉式ガス化溶融炉は、木材、プラ、金物などあらゆる材質の廃棄物が土や泥に混ざった災害ごみを安全・確実に処理できるため、災害復興には欠かせない存在です。被災した状況のなかで、一度に大量に発生したごみを、いかに速やかに収集して処理していくのか。2018年の大阪北部地震における茨木市と、同年の西日本豪雨における福岡県飯塚市の2つのケースで、その現場での取り組みを紹介していきましょう。

茨木市と飯塚市での自然災害。まずは速やかにごみを集める

大阪北部地震が発生したのは、2018年6月18日のことです。人的被害のほか、一部損壊も含めた住宅被害は55,000棟以上におよびました。震度6弱を観測した大阪府茨木市では、神社の門が倒壊したり住宅の外壁や瓦が落下したりして、道路が塞がれます。

西日本豪雨が発生したのは、翌7月のことです。福岡県内では6日の17時に特別警報が発令され、飯塚市では市内を横切る遠賀川が危険水域に達した18時に、市長からの避難を促すメッセージが発信されます。8日になって注意報が解除されると、浸水した家電品やタンスや畳などが市内のあちらこちらに置かれるようになりました。

このような時、行政は一刻も早く市民生活を平常へと戻さなくてはなりません。そのためには、災害ごみを速やかに市内から撤去する必要があります。交通の妨げにもなり、臭いや埃を発生して衛生的な問題も生じる上、いつまでも放置されている災害ごみは、被災者の気持ちを滅入らせてしまいます。とはいえ、一斉に発生した膨大な量のごみは一体どうしたらよいのでしょう。

数多くの自治体がガレキ処理に困る中で、茨木市と飯塚市では、災害ごみの仮置場の設置にいち早く動きました。この判断の背景には、共にシャフト炉式ガス化溶融炉を所有しているアドバンテージがありました。「うちの施設は、多種多様なごみを処理できる。とにかく仮置場にどんどん集めていこう。あとは、操業を任せている日鉄環境プラントソリューションズ(NSES)と連携しながら、計画的に溶融処理していけばいい」

仮置場に運び込まれた災害ごみ。木材、プラ、金物などあらゆる材質のごみが土や泥に混ざった状態で運び込まれる

災害ごみ独特のトラブルをいかに乗り越えるか〈茨木市〉

茨木市環境衛生センターが被災したのは、朝7時58分のことです。地震による損傷はないか。入念な点検を行った結果、溶融炉や付随設備に問題はありません。夜11時には設備を立ち上げ、溶融処理を始めました。ところが3日目の朝、ごみ処理が進まなくなり、運転を停止せざるを得なくなります。

センターでは3基の溶融炉を所有していますが、1基は定期点検中でした。残る2基のうち1基が使えないとなると、災害ごみの処理は大幅に遅れることになります。急遽、NSESは他事業所からの応援を要請して、20人のスタッフで復旧にあたりました。北九州のNSES本社とはテレビ会議でアイデアを練り、市の職員とは夜中まで激論を交わしながら、対応策を検討していきます。「災害に強い溶融炉と言っているのに、ここでごみを溢れさせる訳にはいかない。できることを全てやり、早急に炉を立ち上げる必要がある」

停止の原因は、処理するごみの質が急激に極端に変わったことでした。シャフト炉式ガス化溶融炉は、炉の底部からごみ中の灰分が溶けた状態で排出されますが、この主成分のケイ素(Si)とカルシウム(Ca)の比率が偏ると流動性が悪くなり炉底からきれいに排出できなくなります。地震後に出された一般の家庭ごみには、割れたガラスや茶碗などケイ素でできているごみが大量に混ざっていました。それらが一気に集中して投入されたため、溶融物の流動性が悪くなり、ごみ処理が一時的に滞ってしまったのです。

市職員からの檄にも奮い立たされ、丸2日間泊まり込みの体制で、なんとか再稼働にこぎつけました。

その後は災害ごみの傾向を注視しつつ、温度を左右するコークス比率や、溶融後に排出されるスラグの特性などを分析しながら、最適な制御方法により災害ごみを含めて安定したごみ処理を行っていきます。

地震による災害ごみが少なくなってきた9月の初め、茨木市は再び天災に見舞われました。関西空港の連絡橋にタンカーが衝突するなど、大きな被害をもたらした台風21号です。センターにおいても、停電により施設が休止し、スタッフは臨機応変なオペレーションを行いました。

2つの災害による茨木市内のごみは約6200トン。こうした数々の困難に直面しながらも、操業をしっかりと継続させ、地震発生から4か月で処理を完了させました。

茨木市環境衛生センター中央制御室と
NSESの垰本所長

民間との連携で、速やかな収集を実行する〈飯塚市〉

注意報が解除された7月8日の土曜日、飯塚市クリーンセンターの職員たちは、基地局の浸水によって電話が不通になるなどの混乱の中、市内を巡回したり市の災害対策本部に出向いたりしながら、状況の把握に努めました。

ごみの収集については、市の収集車だけでは到底追いつきません。そこで飯塚市は、民間の産廃業者や解体業者からなる協会と結んでいる、ごみ収集の連携協定を発動しました。 行政と民間が一体となってあらかじめ準備し、合意しておいたものです。

地震発生後に発生するガレキとは異なり、最大で2m40cmにも達する浸水によって発生したごみには、特徴があります。タンスやベッドなどの家具、畳といった大型のものが多いのです。家具や畳はそのままのサイズでは溶融炉に入りません。そのため、仮置場へまずは搬入し、破砕してから、センターへと搬入されました。これは、以前の豪雨災害時の経験から考案された手順です。

センターでは、ピットと呼ばれる空間にごみが貯められます。災害ごみ処理時にも安定したごみ処理を行えるようにある程度ピット内のごみを均一にするため、NSESのスタッフがクレーンを操作して、ごみをまんべんなく攪拌していきます。ピット内は、1番地から64番地までエリアを細分化して管理されていますが、ごみの種類を認識するのはクレーン運転士の目と耳です。集中力を要する地道な作業で混ぜ合わせながら、シャフト炉式ガス化溶融炉にごみを投入していきます。

こうして飯塚市では、1日30トンを目安に災害ごみの溶融処理を続け、9月10日に仮置場を閉めるまで、約1400トンの災害ごみを処理しました。

災害ごみプロセス図(飯塚市)

(クリックで拡大)

飯塚市クリーンセンターに運び込まれる災害ごみ

飯塚市クリーンセンター NSESの池永所長

長期にわたる操業との一体化体制。蓄積したノウハウで災害に備える

私たちが災害ごみの処理に取り組んだのは今回が初めてではありません。シャフト炉式ガス化溶融炉の特徴を活かし、これまでにも全国各地での実績を重ねてきました。

2011年の東日本大震災の際には、岩手県釜石市において周辺自治体からの受け入れも含む約4万トンの災害ごみを処理した他、福島県広野町では仮設炉を建設して、放射性物質を含む廃棄物を処理しました。

他の焼却炉では対応できない処理の難しいごみに対応できるのは、シャフト炉式ガス化溶融炉のプロセス的な特徴に加えて、設備対応(ハード)と操業技術(ソフト)が一体となって取り組んでいるという背景があります。

それでも、いざ災害が起こると、想定していない事態が起こります。いかなる状況やトラブルに遭遇しても、迅速かつ的確な対応で被災地復興のサポートができるように。日鉄エンジおよび全国のNSESにおいて、各地で積み上げたノウハウの共有を進めています。


Customer's Voice

過去の教訓を生かしながら、地域社会やNSESとの連携を強めて

飯塚市では、過去に何度も大きな豪雨災害を経験しています。これを受けて市は、河川整備計画を進めてきました。今回の西日本豪雨において、飯塚市の被害が比較的抑えられたのは、そうした過去の教訓から学んだことも1つの要因だと思います。また、飯塚市クリーンセンターでは、熊本地震の際にも災害ごみを受け入れています。その経験も、今回のごみ処理に生かされました。

これはクリーセンターの力だけでできたことではありません。西日本豪雨の際、飯塚市の災害ごみの約7割は民間業者の協力によって集められました。また、仮置場の設置にあたっても、駐車場と公園を囲む住宅地10地区の自治会長さんたち全員が快く使用を了承してくださいました。こうした地域社会との繋がりがあってこそ、いざというときに強い力となることを、あらためて感じさせられました。

「1日でも早く生活を立て直していただくため、市内の災害ごみは仮置場にとにかく一旦集めていく。処理はあとからどうにでもなる」。こうしたスタンスを貫けたのは、どんなごみでも溶かすことのできるシャフト炉式ガス化溶融炉への信頼があってこそのことです。これからも運営を任せているNSESさんと共に、ごみ処理という市民生活の基盤を守り続けていきたいと考えます。

飯塚市役所市民環境部環境対策課
鐘ヶ江孝二様

飯塚市市民環境部の皆さん。
左から2番目が鐘ヶ江様

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