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サステナビリティ

一般廃棄物溶融スラグの肥料化

独自の技術でごみを溶かして作られた砂が、農作物の収穫量を20パーセント増やし、
温暖化防止にもつながっていく

毎日の生活を送る中で発生し、自治体によって大量に収集される一般ごみ。ごみの分別回収、リサイクル・リユースといった取り組みが進んだとはいえ、最終処分場の残余容量は約20年とされています。この課題に対して、私たちは40年前から取り組んできました。焼却ではなく溶融というごみ処理方法を開発し、灰ではなく砂(溶融スラグ)とすることで土木用材料として100パーセント再利用できるシステムをつくってきたのです。公共工事の減少にともない、供給先の確保が難しくなる中で、新たに打った一手。〈一般廃棄物溶融スラグの肥料化〉について紹介しましょう。

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廃棄物の溶融スラグという〈資源〉

私たちが長年取り組んできた環境事業の一つに、ごみ処理施設の建設があります。製鉄の高炉技術を応用した〈ガス化溶融炉〉によって、ごみを燃やすのではなく、高温下で溶かす。排ガスの放出や、最終処分場へと持ち込む量を極めて少なく抑えられる方式です。

大気汚染の懸念や、新たな埋立地の確保が年々厳しくなる中、独自の技術を磨きながら、自治体のごみ問題を解決してきました。1979年に岩手県釡石市で建設した一号機から約40年、これまでに手がけたごみ処理施設は全国32に及びます。その歩みの中で注力してきたのが、ごみの再資源化です。

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ごみを焼却すると出る灰が、ガス化溶融炉では砂状の〈溶融スとして再利用されてきたスラグを、なんとか生かせないだろうか。私たちは溶融スラグを〈エヌエスエコサンド® 〉として商品化しました。その販売やリサーチを担う事業会社を1998年に発足。道路のアスファルトやコンクリート骨材、グラウンドの排水改善、魚礁・藻場ブロックなど、さまざまな用途に広めてきました。

ところが近年、公共工事の減少にともない、供給先も減りつつあります。私たちが掲げているのは、溶融スラグの〈再利用率100パーセント〉という徹底した目標です。その実現のためには、これまでとは発想の異なる、まったく新しい用途の開発が不可欠でした。

けい酸とカルシウムに着目。産官学連携による共同試験へ

きっかけは、7年前から開始した、ゴルフ場での再利用でした。高温溶融という特性上、雑草の発生原因となる雑菌がないことから、私たちは芝育成用の土としての提案を進めていきます。すると、いくつものゴルフ場において、従来の土よりも芝の育成状況が良好なことが確認できたのです。

「芝はイネ科の植物だから、水稲栽培にも使えるのではないか」

イネ科の作物では、通常の肥料に〈けい酸質肥料〉を加えると、収穫量が増えることが知られています。製鉄プロセスで発生する鉄鋼スラグは古くからけい酸質肥料として流通しており、高炉技術を応用した当社のガス化溶融炉から産出される溶融スラグも高炉スラグと似通っています。

こうして、溶融スラグの肥料化に向けた取り組みはスタートしました。まず私たちは、ごみ処理施設を納めた実績のある、静岡市に相談を持ちかけました。地元で出たごみから肥料をつくり、地元の水田に蒔き、地元の消費者にコメを届ける。その趣旨に賛同した静岡市の紹介により、静岡大学農学部の先生にも協力いただけることになりました。

「これは非常にいいものです。絶対に効果があります」

研究室での分析結果から返ってきたのは、とても心強い反応でした。水稲の育成を促すための、可溶性けい酸とアルカリ分(カルシウム)が豊富に含まれていることが立証されたのです。そして、静岡市・静岡大学との産官学連携による、水田での共同試験へとフェーズは移ります。使用したコシヒカリの苗は極めて順調に、すくすくと育っていきました。しかし、肥料化するための大きな壁が、私たちの前に立ちはだかっていたのです。

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ポット試験の様子

人の口に入る作物。その肥料として安全なのか?

成分や効果がいくら確認されていても、肥料として市場に出すには、農林水産省による登録認可が必要です。そこで肥料登録の手続き窓口である農林水産消費安全技術センター(FAMIC)を通じての、農林水産省とのやり取りが始まりました。FAMICは地産地消や資源循環に前向きで、経験を基に多くのアドバイスを受けました。

しかし、通常の肥料は原料が選べるのに対し、一般廃棄物からできている溶融スラグはそれができないという、前例のない課題に直面することになります。 「 安全性が確保出来るのか?」という疑問を払拭するためFAMICとの幾度にもわたる協議を重ねました。

約1800度の熱でごみを溶融するというプロセスの原理から、有機分がすべて分解されるのはもちろん、重金属類はほとんどが気化、結果として天然砂並みの安全性をもった溶融スラグが産出されます。また、この原理を裏付けるべく静岡はもちろん他地域で稼働している施設の溶融スラグを集めて、投入するごみの違いや季節的なごみの変化における、肥料としての安全性を確認していきました。

また、百聞は一見にしかずです。農林水産省の関係者を招き、実際の溶融炉や溶融スラグの産出の現場を見てもらうことで、「これだけきちんと溶けていれば安全だ」「天然の砂と何ら違わない」という言葉をいただけるほど、理解を得ることができました。

肥料の効果確認にあたっては静岡大学に多大なご協力をいただきました。試験では学内にある草の生い茂った現場の田起こしから始め、ゼミの学生と泥まみれになって田植えを行いました。また、ポッド(植木鉢)試験では100鉢を越える数の試料がそれぞれ同一条件で育成されるよう鉢の位置を毎日入れ替えし、定期的に成長度合いの測定を行っていただきました。これら一つひとつがデータとして記録され登録申請のための報告書として取りまとめられました。

このような地道な取り組みの末、仮登録できたのが2017年の3月です。最初にFAMICに相談してから5年の月日が経っていました。一般廃棄物を起源とする肥料の仮登録は全国で初めてであり、農林水産省としても画期的な事例となりました。2017年6月、静岡市役所にて、この仮登録を産官学連携の成果として共同記者発表し、大きな反響をいただきました。

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(クリックで拡大)

収穫量は2割アップ。循環型社会に貢献

溶融スラグから生まれた新しい肥料を、私たちは〈ディーエムケイカルⓇ〉と名付けました。収穫量が2割強アップするという結果が、これまでの試験で実証されています。多く撒きすぎると発育障害で収穫が落ち込んでしまう肥料もある中で、その傾向は現れていません。また、コメの価格が抑えられてきた影響で、土作りができていない田んぼが増えているという指摘もありますが、そうした土壌の改善も期待できます。

こうしたデータをさらに蓄積していくために、私たちはできるだけ現場に足を運んでいます。静岡のJAにある水稲研究会など、ざまざまな関係者の協力のもと、草抜きや肥料を撒きに行ったり、田植えや収穫に行ったり......。季節を感じながら、現場の声を直に聞くことがエンジニアリングの原点だと考えているからです。

現在は、私たちが手がけた全国各地の溶融炉の近隣で、〈ディーエムケイカルⓇ〉を使ってもらう計画を進めています。輸送費も低く地産地消が成り立ち、資源循環型社会の実現に寄与できるためです。さらには、イネの光合成を促進することで、CO2の吸収率を高め、地球温暖化防止への貢献にもつながります。

溶融スラグを捨てることなく100%活用する̶。

静岡大学農学部の協力の下、同学部内においてマコモダケを、奄美大島においてサトウキビの生育実験を新たにスタートしました。これからも尽きることなく、毎日の生活の中から発生する〈溶融スラグという資源〉をいかに活用できるか。その可能性について私たちは引き続き模索していきます。


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静岡市の当社グループ会社社員所有の水田。
ディーエムケイカル® の散布作業

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溶融スラグ肥料を用いた水田の田植えの様子
(2018年6月)

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「ケイ酸質肥料」への仮登録は、溶融スラグ販売代理店である「エヌジェイ・エコサービス」が受領した

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粘り強く取り組んできた、環境・エネルギーセクターの住(左)と梶山(右)

Stakeholder's Voice

静岡市の溶融スラグが、日本で初めて肥料として認められました

静岡市では、公共工事において、溶融スラグを利用してきましたが、その多くが、上下水道管埋設工事で使用される管巻砂で、今後、下水道工事の縮小などに伴い、溶融スラグの需要の減少が予想されます。

将来にわたって、継続的に安定した利用を図るためには、公共工事における利用用途の拡大や、新たな分野での活用が必要となります。貴社には、本市西ケ谷清掃工場稼働当初から、溶融スラグの利用拡大の検討をお願いしてきましたが、その一つとして、5年前に「肥料化」のご提案をいただき、地元の静岡大学と産・学・官の連携により、研究を進めてきました。

このたび、肥料仮登録への運びとなり、農作物への利用が可能となったことで、本市の溶融スラグの安全性、価値がさらに高まったと考えています。

貴社からも、溶融炉の付加価値の向上が見込めるとのお話を伺い、今回の研究が、静岡市、貴社両者にとってまさにWin-Winの結果をもたらすことができたといえるのではないでしょうか。

肥料化に向けたイネ科植物の生育試験においては、民間企業ならではの、機動力、情報力により、地元静岡大学や、また奄美大島などの遠隔地での実験や検討を迅速に進めていただくことができました。

溶融スラグについては、引き続き、イネ科植物以外の肥料効果や、その他の分野での研究を進めていますが、今後ますます進展し、さらなる利用用途の拡大が実現することを期待しています。

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静岡市上下水道局 水道部水道管路課 参事兼係長
星野浩之様

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